赤も色々

2025年11月14日(金)|投稿者:kclスタッフ

こんにちは、なばなです。

11月、紅葉のシーズンになりましたね。

桑名も色づいた木々を見かけることが増えたように思います。

紅葉と言えば「赤」ですが、本でも表紙やタイトルに「赤」を使ったものがたくさんあります。

そこで今回は、タイトルに「赤」を含んだ本をいくつかご紹介します。

 

 

まず初めはこちらです。

『診療室にきた赤ずきん 物語療法の世界』(大平 健/著 早川書房 1994.6)

精神科医の著者が、童話や昔話で患者の心を癒していく話です。

心の病は、原因や症状を自覚することが難しいもの。著者は、物語を通して原因を探り、心の傷を癒していきます。

語られるのは『三ねんねたろう』や『あかずきん』などの普通の昔話です。けれど、話を聞くうちに患者は、それが自分の物語だと気づいて、苦しみを受け入れていくのです。

独特の視点で患者の悩みを紐解く様子は、ミステリーの解決場面にも似た爽快感があります。

「一見すると関係ないのでは?」と思うような物語でも、聞いているうちに納得してしまい、物語を通して変化していく患者の姿に、前向きな気持ちになります。

人の心と物語の奥深さを感じる本です。

 

 

続いてはこちらです。

『六本木の赤ひげ』(飯島 一孝/著 集英社 2003.5)

東京の麻布台にあるクリニックには、国籍も立場も異なる外国人の患者が次々とやって来ます。

こちらは、クリニックの院長を務めるアクショーノフ医師の数奇な半生を綴った本です。

アクショーノフ医師は大使館から依頼を受けて、マイケル・ジャクソンなど著名な人を診察することがあります。一方で、不法滞在者も治療し、治療費を払うのが難しい貧しい外国人は無料で診察します。

元々、アクショーノフ医師の両親はロシア革命の時にロシアから逃れ、当時の満州国のハルビンにたどり着き、彼はその地で生まれました。その後、支援してくれる日本の華族と出会い、日本へ留学し医者を目指します。

第二次世界大戦中は監視のある生活を余儀なくされ、戦後は満州国がなくなり、国籍を失いました。

クリニック開院後も何度かスパイ容疑をかけられ、さまざまな苦難を経験してきました。

けれど、彼は常にポジティブで、日々の暮らしを楽しんでいます。そして、何よりも苦しむ人を優先して助け、どんな患者にも公平に接します。

こんな人が六本木にいたのか、いてくれたのか、と不思議な感動が湧いてきます。

残念ながらアクショーノフ医師は2014年に亡くなりました。

国際化する日本を生きていく上で、読んでおきたい本です。

 

 

次は少しダークな歴史です。

『完璧な赤 「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語』(エイミー・B.グリーンフィールド/著,佐藤 桂/訳 早川書房 2006.10)

舞台は15世紀から17世紀のヨーロッパ。各国が新航路を発見し各大陸へ漕ぎだした大航海時代。

スペイン人が発見した「完璧な赤」を巡る、人々の欲望の歴史を書いた本です。

「完璧な赤」とは、カイガラムシの一種であるコチニールから作った染料のことです。

当時のヨーロッパでは染料は貴重で、中でも高貴な色とされた赤は、非常に価値がありました。

そんな中、スペインが占領したメキシコで見つけた「完璧な赤」

どんな染料よりも美しい色彩に、ヨーロッパ中が魅了されたのです。

コチニールを独占するため、原料を秘匿するスペイン、海賊を差し向け奪おうとするイギリスとオランダ、メキシコへスパイを送るフランス。

ヨーロッパ全土を巻き込んだ欲望の渦は多くの争いを起こしていきます。

美しい色を出す染料が宝物にも値する価値があったことは理解できます。けれども、贅沢品でしかない染料のために、どれほどの人間が命を落とし、悲劇に巻き込まれたのか。

やるせない気持ちが湧いてきます。

人の欲望の深さが垣間見える本です。

 

 

最後はこの1冊です。

 

『噓つきアーニャの真っ赤な真実』(米原 万里/著 長尾 敦子/デザイン KADOKAWA 2001.6)

こちらは、ロシア語同時通訳者で作家の米原万里さんのエッセイです。

米原さんは小学4年生からの5年間を、チェコスロバキアの首都プラハに住み、ソビエト学校に通いました。

ロシア語で教育が行われるソビエト学校には、たくさんの国の子ども達が通っていました。

それから30年、共和制の崩壊により東欧諸国は激動の時代を迎えます。

少女時代の思い出の国の変化をきっかけに、米原さんは友人の消息を追うようになります。

ギリシャ人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミンカ。

当時の友人たちに会いに行きます。

その過程で、その時はわからなかった真実に気づいていきます。

この作品には、東欧の共産主義の崩壊に巻き込まれた人々が、生々しく描かれています。

人々から語られる、諸国の現状や、時代に翻弄された半生。

ニュースでは伝わりきらない一人ひとりの現実と歴史があります。

世界の情勢が変化している今、読んでほしい本です。

 

 

同じ「赤」を含んだタイトルでも、内容は全く異なります。

本を色で選ぶことはあまりないと思いますが、こんなふうに「赤」に関する本を探すだけで、さまざまなジャンルの本を楽しめます。

いつもと少し違う着眼点で、今まで出会ったことのない本を探してみるのはいかがでしょうか。

 

<紹介資料>

『診療室にきた赤ずきん 物語療法の世界』(大平 健/著 早川書房 1994.6)

『六本木の赤ひげ』(飯島 一孝/著 集英社 2003.5)

『完璧な赤 「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語』(エイミー・B.グリーンフィールド/著,佐藤 桂/訳 早川書房 2006.10)

『噓つきアーニャの真っ赤な真実』(米原 万里/著 長尾 敦子/デザイン KADOKAWA 2001.6)

<なばな>

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