秋の夜長、なにを読む?
2025年9月11日(木)|投稿者:kclスタッフ
こんにちは、たがねです。
9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続いていますね。体感的には夏気分が抜けませんが、暦の上ではもう秋。期間限定メニューやスイーツで、一足先に秋を感じるようになりました。
9月の和風月名(旧暦での呼び名)である「長月」は「夜長月」から付けられたと言われています。秋分の日を過ぎたあたりから冬に向けて日照時間が短くなり、夜が少しずつ長く感じられるようになりますね。そんな夜が長い季節だからこそ、ゆったり過ごす時間が楽しみになります。
秋の夜長に楽しめることはいろいろありますが、図書館としてはやっぱり読書をおすすめしたいところ。
でも、いざ読書しようと思っても、読みたい本がなかなか見つからないことはありませんか? 気分を変えて、いつもは選ばないジャンルに挑戦してみたい時もありますよね。
今回は、秋の夜長のお供になる本選びに役立つ本をいくつかご紹介したいと思います。
まずはこちら、

『人生を狂わす名著50』( 三宅 香帆/著 今日 マチ子/絵 ライツ社 2017.10)
新書大賞2025を受賞した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が話題の三宅香帆さんによる書評集です。
本を読むことで考え方や生き方が大きく変わってしまうことを三宅さんは「人生を狂わす」と表現しています。
そんな人生を狂わす名著50冊を、気軽な語り口で紹介。まるで友達とおすすめ本を語り合うような軽やかな文体でスルスル読み進められます。さらに、各章の最後に「次に読みたい本」も3冊ずつ紹介してくれます。きっと気になる本が見つかると思います!
図書館には、この本以外にもいろんな書評集があります。書評の本は、請求記号019.9です。ぜひ手に取ってみてくださいね。
次に紹介するのはこちら、

『ブックデザイン365』( パイインターナショナル/編著 パイインターナショナル 2020.3)
本を選ぶ時、表紙に惹かれて思わず手に取ったことはありませんか? 表紙買いするという方も多いと思います。
この本は、文芸書から辞典までさまざまな本の、思わず手に取りたくなる装丁を365冊以上紹介しています。大きな写真とともに、書籍の概要やデザインコンセプトなどの情報がコンパクトにまとまっていて、眺めるだけで楽しい1冊です。ページをめくるたびに「こんな見せ方があるんだ!」と発見があり、本の楽しみ方がちょっと広がります。
この本の中で紹介されている本から気に入ったデザインの表紙を選んで読んでみるのも楽しそうですね。
図書館でも、新刊コーナーや展示棚、書架に表紙を見せて並べています。ぜひそちらにも注目してみてください。
最後に紹介するのはこちら、

『おかしな本棚』( クラフト・エヴィング商會/著 朝日新聞出版 2011.4)
この本は、不思議な雰囲気が漂う本棚をテーマにした本です。「頭を真っ白にするための本棚」や「波打ち際の本棚」などのタイトルがついた本棚が写真とともに紹介されています。写真で見えるのは背表紙だけですが、眺めていると「どんな本なんだろう?」と想像が広がっていきます。紹介されている本棚には実在しない本も混じっていますが、ほとんどは実際にある本です。図書館で所蔵している本もあるので、探して読んでみてください。
図書館の本棚もずらっと並んだ背表紙を見ているとワクワクしますよね。
特に展示コーナーは定期的にテーマを入れ替えているので、期間限定の本棚が見られます。普段はあまり手に取らないジャンルの本とも出会えるかもしれません。ぜひチェックしてみてください。
そして、この図書館ブログでも本選びのお手伝いができるかもしれません。スタッフによるおすすめ本紹介の記事がたくさんあり、カテゴリー「おすすめ本」からまとめてご覧いただけます。過去の記事でもたくさんの本を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
それでは、夜更かしはほどほどに!
秋の夜長に充実した読書時間を楽しんでくださいね。
<参考資料>
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅 香帆/著 集英社 2024.4)
『人生を狂わす名著50』(三宅 香帆/著,今日 マチ子/絵 ライツ社 2017.10)
『ブックデザイン365』(パイインターナショナル/編著 パイインターナショナル 2020.3)
『おかしな本棚』(クラフト・エヴィング商會/著 朝日新聞出版 2011.4)
<たがね>
蔵書点検よる休館と貸出期間延長のお知らせ
2025年8月28日(木)|投稿者:kclスタッフ
桑名市立中央図書館は、蔵書点検のため以下の期間休館いたします。
休館に際し、皆さまには大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力をお願いいたします。
【中央図書館 休館期間】
9月26日(金)~10月1日(水)
※休館期間中の返却は、くわなメディアライヴ1階南側の返却ポストをご利用ください。
ただし、CD、DVD、大型絵本・大型紙芝居、ゆめはま文庫、桑名市外から取り寄せた図書は破損のおそれがありますので、開館日にカウンターへお持ちください。
◎期間中の講習室利用について
2階講習室も、休館中(9月26日~10月1日)は、ご利用いただけません。
また、休館に伴い貸出期間の延長を行います。
【図書・雑誌の貸出期間延長】
9月12日(金)~9月25日(木)の貸出 ・・・ 3週間
※桑名市外から取り寄せた図書は、貸出期間が異なります
【CD・DVDの貸出期間延長】
9月19日(金)~9月25日(木)の貸出 ・・・ 2週間
蔵書点検期間中は、図書館にある資料1冊1冊を専用の機械で読み取り、決められた場所にあるか、なくなってしまった資料はないかを確認する作業を行っています。
過去のブログでも「蔵書点検」について取り上げたブログが複数あります。
ブログページ内に表示されている「ブログ記事検索」に「蔵書点検」と入力いただくと、過去の蔵書点検の様子をご覧いただけます。
今の図書館とは少し違う姿が記録された部分もありますので、ぜひ検索してみてください。
しばらくの間、休館いたしますが、リフレッシュした図書館を楽しみにお待ちください。
夏と祭り
2025年8月4日(月)|投稿者:kclスタッフ
こんにちは、なばなです。
今年も桑名で石取祭が開催されました。
石取祭は、桑名の町屋川で石を採り、氏神に納める石取という民間行事が祭礼化したものです。
太鼓と鉦で囃しながら、祭車を曳いて回る石取祭。
その騒々しさから、「日本一やかましい祭り」と言われています。
打ち鳴らされる音はかなりのものですが、聞いていると、不思議と真夏に負けないパワーを貰える気がします。
祭りで元気になるという感覚は、昔からあったようです。
祭りや正月などの特別な行事を意味する「ハレ」という概念があります。
反対に、日常を維持する活力を「ケ」と言います。
「ケ」は、時に心身の不調により欠如します。
この「ケ」が欠如することを「ケガレ(気枯れ)」と言います。
そこで、人々は「ハレ」である祭りによって「ケガレ」を祓い、活力を回復させました。
祭りは、日常で失った気力を回復させる場でもあったのです。
(『正月とハレの日の民俗学』宮田 登/著 大和書房 1997.4 より)
暑さによる不調が増える夏は、「ケガレ」の状態になりやすい時期だと言えます。
そこで今回は、猛暑で溜まった「ケガレ」を少しでも祓えるよう、「祭り」をテーマにした本を紹介したいと思います。
まずご紹介するのはこちらです。

『江戸に花咲く 時代小説アンソロジー』(宮部 みゆき/著,諸田 玲子/著,西條 奈加/著,高瀬 乃一/著,三本 雅彦/著 文藝春秋 2024.1)
こちらは5人の作家による、江戸の祭りをテーマにした短編集。
ミステリーから人情噺まで、祭りのさまざまな側面を描いた物語は、読むほどに引き込まれていきます。
中でもおすすめなのは、宮部みゆきの「氏子冥利」
三島屋の小旦那は、ある日、神田明神で石段から落ちかけた老人を助けます。
老人は何やら事情を抱えている様子。
小旦那が尋ねると、老人は、自分の身に起きた数奇な出来事を語り始めます。
話が進むうちに、ホラーのような緊迫感が高まっていきます。
どんな結末が待っているのか、ぜひ読んで確かめてください。
続いては、日本の祭りにくわしくなる1冊をご紹介します。

『日本の祭り解剖図鑑 四季折々の行事からみる日本文化の魅力』(久保田 裕道/著 エクスナレッジ 2023.8)
有名な祭りから地方のマイナーなものまで、日本全国の祭りを紹介しています。
シンプルな図に解説がついた、とてもわかりやすい図鑑です。
祭りの歴史についても書かれていて、日本文化への理解も深まります。
理解が深まると、面白さも倍増するもの。
今まで意識しなかった祭りの場面を、新たな視点で楽しめるようになります。
もっと知りたい、あの名場面が見たい、行ってみたい。
読むほどに、そんな気持ちが湧いてきます。
日本の祭りが、より好きになる1冊です。
日本だけでなく、世界の祭りを知りたい方には、こちらがおすすめです。

『世界の祭りと衣装 The festivals and costumes in the world』(パイインターナショナル/編著 パイインターナショナル 2019.9)
タイトル通り、世界の祭りとその衣装の写真を集めた本です。
美しい伝統衣装に奇怪な仮装、カラフルなパレードとはじける笑顔。
一枚一枚が鮮やかで、眺めていると世界中の祭りを見に行きたくなります。
コラムでは、西洋の祭りの解説や各国の仮面の紹介があり、好奇心が刺激されます。
世界の祭りの魅力を存分に伝えてくれる素敵な写真集です。
最後に紹介するのはこちらの本です。

『星祭りの町』(津村 節子/著 新潮社 1996.2)
舞台は、第二次世界大戦が終わったばかりの日本。
七夕祭りで有名な町に疎開してきた三姉妹と祖母の暮らしを描いた物語です。
著者の自伝的小説でもあります。
進駐軍の基地となり変貌していく町、先の見えない社会情勢。
淡々と描かれる情景はリアルで、胸に迫ります。
厳しい現実に翻弄されながらも、三姉妹は生きる道を模索し、少しずつ自立していきます。
戦争で中断していた七夕祭りが昔の賑わいを取り戻していく様子は、三姉妹が前に進んでいく姿と重なります。
この夏、ぜひ読んでいただきたい本です。
ちなみに、話に登場する七夕祭りは、「狭山市入間川七夕まつり」として現在も開催されています。
今年は終わっていますが、機会があれば行ってみたいですね。
暑い夏はまだまだ続きそうです。
実際の祭りはもちろん、本の中の祭りも楽しんで、今年の夏を乗り切りましょう。
<紹介・参考資料>
『正月とハレの日の民俗学』(宮田 登/著 大和書房 1997.4)
『江戸に花咲く 時代小説アンソロジー』(宮部 みゆき/著,諸田 玲子/著,西條 奈加/著,高瀬 乃一/著,三本 雅彦/著 文藝春秋 2024.1)
『日本の祭り解剖図鑑 四季折々の行事からみる日本文化の魅力』(久保田 裕道/著 エクスナレッジ 2023.8)
『世界の祭りと衣装 The festivals and costumes in the world』(パイインターナショナル/編著 パイインターナショナル 2019.9)
『星祭りの町』(津村 節子/著 新潮社 1996.2)
<なばな>
七月六日はサラダ記念日
2025年7月1日(火)|投稿者:kclスタッフ
「この味が いいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
(『サラダ記念日』より)
こんにちは、志るべです。
暑くなってきましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
俵万智さんの歌集『サラダ記念日』は、一大短歌ブームを巻き起こしました。
出版されたのは昭和62年(1987)。もう38年前になるのですね。
国語の授業で習った、という方もおられるかもしれません。
短歌といえば、なじみがあるのはせいぜい百人一首。文語で書かれた歌は、言葉の響きは美しいけれど意味がよくわからない・・・ そんな印象をガラリと変えてくれたのが『サラダ記念日』でした。日々のできごとが今の言葉で詠まれ、失恋だって明るくさらりと表現されています。
「こんな風に詠んでいいんだ!」と新鮮な驚きを感じたものです。毎日を記念日にして、指折りながら言葉をひねり出したりして。
時は流れ、今また令和の短歌ブームが起きています。若者の短歌人口もかなり増えているのではないでしょうか。SNSの力は大きいですが、雑誌への投稿も人気があります。
最初にご紹介するのはこちら。

『すごい短歌部』(木下 龍也/著 講談社 2024.11)
文芸誌「群像」の連載記事「群像短歌部」を書籍化したものです。
読者から寄せられた短歌を歌人の木下さんが選び、講評を加えています。木下さんも同じテーマで短歌を詠み、自身の作品は完成形だけでなく、最初にできた短歌から完成作品までを順に並べ、変化を分析しています。作品作りの手の内を見せてくれることで、作者が何を感じ、どのように推敲していったのかがわかるようになっています。テーマに合わせて詠むにはどうすればいいのか等、短歌初心者へのヒントも示されています。とはいえ、短歌に公式はないのだそうです。
ところで、短歌を詠むには題材が必要です。
短歌や俳句の世界では、題材を求めて「吟行」という名の遠足に出かけます。
次の1冊はこちら。

『短歌遠足帖』(東 直子/著,穂村 弘/著,岡井 隆/[ほか述] ふらんす堂 2021.2 )
歌人のお二人、東直子さんと穂村弘さんがゲストとともに短歌遠足に出かけます。どこかに出かけ、何かを見て、会話をして、短歌を詠んで、感想を伝えあう、そんな様子がつづられています。
歌人の岡井隆さんと行く動物園への遠足に始まり、小説家の朝吹真理子さんと鎌倉へ、脚本家の藤田貴大さんと東京タワーへ、漫画家の萩尾望都さんと上野公園へ、そして最後は芸人の川島明さんと行く大井競馬場で締めくくられています。
仲間とどこかに出かけて短歌を詠む「短歌遠足」、なんだか楽しそうですね。
ただし、その場で詠んで発表するというのは、かなりのプレッシャーではありますが。
歌人の穂村さんといえば、前回のブログで「たがね」が紹介したあんこのエッセイ「あんパン」(『ずっしり、あんこ』に収録)を書かれた方です。穂村さんは絵本もたくさん翻訳しています。どうしても絵本のつづきを読んでほしいオオカミのお話『このほんよんでくれ!』は言葉と絵がぴったりで、翻訳であることを忘れてしまいます。穂村さん人気です。
最後にご紹介するのは短歌を題材とした小説です。

『うたうとは小さないのちひろいあげ』(村上 しいこ/著 講談社 2015.5)
高校生の桃子は、親友の綾美が不登校になった原因は自分にあるという思いを抱えながら学校生活を送っていました。そんな桃子があるきっかけで「うた部」に入部することになり、うた部での人や短歌との出会いによって桃子も、そして綾美も変わっていきます。
著者の村上しいこさんは三重県の方で、子どもたちに向けて数々の作品を発表されています。
村上さんは、平成13年(2001)に毎日新聞《小さな童話大賞》で「俵万智賞」を受賞し、それかきっかけで童話作家としてデビューされました。それから14年がたち、『うたうとは小さないのちひろいあげ』が出版されました。短歌とのご縁を感じますね。
あとがきには、「あの時、賞に選んでくれた俵万智先生に少しは恩返しができるような作品になったかな」と書いておられます。
ちなみにこのお話の中で短歌遠足はピクニック短歌、「ピク短」という言葉で表現されています。
みなさまも「短歌遠足」もしくは「ピク短」に出かけて、一首いかがでしょうか。
<紹介・参考資料>
『サラダ記念日』(俵 万智/著 河出書房新社 1987.5)
『すごい短歌部』(木下 龍也/著 講談社 2024.11)
『短歌遠足帖』(東 直子/著,穂村 弘/著,岡井 隆/[ほか述] ふらんす堂 2021.2 )
『うたうとは小さないのちひろいあげ』(村上 しいこ/著 講談社 2015.5)
『ずっしり、あんこ』(青木 玉/[ほか]著 河出書房新社 2015.10)
『このほんよんでくれ!』(ベネディクト・カルボネリ/文,ミカエル・ドゥリュリュー/絵,ほむら ひろし/訳 クレヨンハウス 2019.7)
<志るべ>
和菓子をたのしもう!
2025年6月12日(木)|投稿者:kclスタッフ
はじめまして、たがねと申します。
新しくブログを担当させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。
さて、私の名前「たがね」は桑名名物のたがねせんべいからいただきました。歯ごたえのある食感とたまり醤油の味がクセになる美味しさですよね。
せんべいといえば和菓子の仲間ですが、みなさんは6月に「和菓子の日」という記念日があるのをご存じですか?
6月16日の和菓子の日は、全国和菓子協会によって昭和54年(1979)に制定されました。これは、厄除けを願ってこの日に和菓子を食べる「嘉祥菓子(かじょうがし)」の習わしを由来としています。この風習が始まったのは平安時代。疫病が蔓延した日本で年号を「嘉祥」と改め、その年の6月16日に、16個の和菓子を神前に供えて疫病除けを祈ったとされています。江戸時代には「嘉祥の日」として親しまれ、江戸城では2万個もの和菓子が大名や旗本にふるまわれたそうです。
(『季節を愉しむ366日』 三浦 康子/監修 朝日新聞出版 2022.3 より)
ということで、今回は和菓子に関する本をいくつかご紹介したいと思います。
和菓子といえば、味だけでなく季節感あふれる美しい見た目も楽しみのひとつですよね。
最初にご紹介するのは、目で楽しむ和菓子の世界をじっくり味わえる、こちらの本です。

『江戸時代の和菓子デザイン』( 中山 圭子/著 ポプラ社 2011.4)
この本は、徳川家御用達の菓子屋が残した菓子絵図帳をもとに、植物や動物、自然などのモチーフ別に再構成されたカラーデザイン集です。
江戸時代、花鳥風月をかたどった上品な和菓子は裕福な上流階級だけが味わえる高級品でした。そうした「上菓子(じょうがし)」を注文する際に使われたのが、菓子絵図帳です。
本書では、当時の職人たちが工夫を凝らした意匠や、季節感あふれる華やかなデザインが多数紹介されています。植物や風景だけでなく、動物や文様、名所までもが菓子の意匠に取り入れられており、和菓子の表現の幅広さに改めて驚かされます。
和菓子が単なる「食べもの」ではなく、芸術品として人々の心を豊かにしていたことが、ページをめくるたびに伝わってくる1冊です。
和菓子のデザインの奥深さを感じたところで、次にご紹介するのは、素朴だけど実は奥が深い「ようかん」を掘り下げるこちらの本です。

『ようかん』(虎屋文庫/著 新潮社 2019.10)
「ようかん」と聞くと、どこか地味なお菓子という印象を持つ方もいるかもしれません。甘くて固くて、昔ながらのおやつ、そんなイメージがこの本を読むと大きく変わります。ようかんで有名な株式会社虎屋の資料室である虎屋文庫が監修した本書は、ようかんの起源から現代に至るまでの歴史を丁寧に紐解き、四季折々の美しいようかんのデザインや、全国各地の名物ようかんを紹介しています。
特に印象的だったのは、ようかんにも季節の風物や自然を色とりどりに表現する文化があること。色や形、素材の組み合わせによって、桜の花や流水、月の光などを描き出すようかんは、まさに「食べられる芸術品」です。さまざまなデザインのようかんや、その意匠を記した菓子見本帳がカラーで豊富に収録されています。
さらに、ようかんの名前の由来や製法の変遷といった、知的好奇心をくすぐる内容も盛りだくさん。和菓子好きはもちろん日本の文化や美意識に関心のある方にもぜひ手に取っていただきたい1冊です。
さて、和菓子で大活躍するものといえばあんこ! さまざまな和菓子に使われていて、粒あん、こしあんをはじめ種類も豊富です。
次に紹介するのはそんな「あんこ」に注目した1冊です。

『究極のあんこを炊く』 (芝崎 本実/実験・検証・菓子作製・文 女子栄養大学出版部 2024.11)
あんこを炊くときに「びっくり水」や「渋きり」は本当に必要なのか。そんな疑問に科学の視点から向き合ったのが本書、『究極のあんこを炊く』です。
和菓子職人としての経験を持ちながら、調理科学の研究者でもある著者が、伝統技術を丁寧に検証し、「究極のあんこ」を理論と実験で導き出していきます。
基本の粒あん、こしあんに加えて、白あん、うぐいすあん、さらにはくるみあんやミルクあんとアレンジレシピも充実。
見た目にもわかりやすいプロセス写真が豊富に載っていて、初心者から上級者まで楽しめる内容になっています。
和菓子作りをより深く理解したい方にぴったりの、実践と知識が詰まった1冊です。
最後にご紹介するのは、あんこへの愛がたっぷり詰まったこちら。

『ずっしり、あんこ』 (青木 玉/[ほか]著 河出書房新社 2015.10)
こちらは、芥川龍之介、手塚治虫、糸井重里や上野千鶴子といった多彩な作家や文化人による、「あんこ」にまつわるエッセイを収めたアンソロジーです。
おはぎ、ようかん、たい焼きなど、さまざまな和菓子の思い出や、日常の中での甘味とのかかわりが、それぞれの筆致で綴られています。
なかでも私の印象に残ったのは、歌人である穂村弘さんの「あんパン」。駅の売店であんパンを買った何気ない場面から始まりますが、エッセイらしからぬ奇想天外な展開に引き込まれ、夢中で読み進めてしまいました。
同じ「あんこ」というテーマでも、書き手によって語り方はさまざま。まるで、どのお菓子になるかで表情を変えるあんこのようです。気になる作家のエッセイから、ちょっとつまんで読んでみるのもおすすめです。
今回ご紹介した本以外にも、図書館にはたくさん和菓子に関連した本があります。ぜひ探して読んでみてください。
和菓子の本をたくさん読んだので、無性に食べたくなってきました。今年の嘉祥の日には、和菓子を食べて健康を祈願してみたいと思います。みなさんもぜひ嘉祥の日を楽しんでみてください!
<参考資料>
『季節を愉しむ366日』(三浦 康子/監修 朝日新聞出版 2022.3)
『江戸時代の和菓子デザイン』(中山 圭子/著 ポプラ社 2011.4)
『ようかん』(虎屋文庫/著 新潮社 2019.10)
(芝崎 本実/実験・検証・菓子作製・文 女子栄養大学出版部 2024.11)
『ずっしり、あんこ』(青木 玉/[ほか]著 河出書房新社 2015.10)
<たがね>