さんまは目黒にかぎる

2025年10月5日(日)|投稿者:kclスタッフ

こんにちは、志るべです。
みなさまいかがお過ごしでしょうか。
食欲の秋、到来!
この時期、おいしいものはたくさんありますが、秋の味覚といえばやっぱりさんま。
そのまま焼いて、脂がジュージュー落ちるところをいただく。
これぞ秋を代表する庶民の味だったはずなのですが・・・
近年は高級魚となり、なかなか口に入らずさびしく思っておりました。ところが、今年は大ぶりで脂ののったさんまが大漁とか、うれしい限りです。

 

 

秋に聴きたい落語のひとつ「目黒のさんま」の中でも、さんまはしもじもの味として描かれています。この噺、ご存じの方も多いと思いますが、簡単にご紹介いたします。

 

秋晴れのある日、殿様が供を連れて目黒まで馬の遠乗りをします。お腹をすかせた殿様は弁当を所望するのですが、あいにくその用意がありません。するとどこからともなくさんまを焼くいい匂い。殿様は供のものに命じ、焼きたてのさんまを買い取らせます。食べたさんまのおいしいこと。
お城に帰ってからもその味が忘れられず、とんがったものを見るとなんでもさんまの頭に見えてくるほどです。ところがさんまはしもじもの食べもので、お城では食べることができません。
なんとか口にする機会に恵まれるのですが、出てきたさんまは上品に料理され、殿様の望むさんまとは別物。あまりの違いに「このさんま、いずかたより仕入れたか?」とたずねます。返ってきた答えは「日本橋、魚河岸にございます」 それを聞いた殿様、「魚河岸? それでいかん。さんまは目黒にかぎる」と。

 

 

もちろん目黒はさんまの産地ではありません。
最後の殿様のひとこと、「さんまは目黒にかぎる」が「オチ」になります。落語では「オチ」のことを「サゲ」というそうです。

 

実際に、こちらでお聴きください。高座の雰囲気が味わえます。
『古典落語入門 ベスト』(古今亭 志ん生/[ほか]口演 King Record 2004.5 CD2枚組)
演者は三代目三遊亭金馬で、「目黒のさんま」はお得意の演目です。

 

十代目金原亭馬生による「目黒のさんま」もぜひどうぞ。
『親子できこう子ども落語集 [4]』(日本コロムビア 2012.1 CD2枚組)

 

文字で読んで味わうこともできます。
『古典落語 [正]』(興津 要/編  講談社 2002.12)
「目黒のさんま」の他にもたくさんの噺が収められています。

 

絵本にも描かれています。

 

 

『めぐろのさんま』(川端 誠/[作] クレヨンハウス 2001.12)

 

 

落語のおかしさって何でしょう?
何回も聴いて、ストーリーもわかっているのにおもしろい。
志ん生さんが登場して「えぇーー」と言うだけで、もう笑いがこみあげてきます。
早口でテンポよく話す噺家の方もいますが、志ん生さんはたっぷり間をとって語ります。ときには、「寝ちゃった?」と思ったりして。
どうしてこんなにおかしいのでしょう?
孫の由紀子さんが祖父志ん生について書いています。

 

 

 

 

著者にとって五代目古今亭志ん生は祖父、「目黒のさんま」の演者でご紹介した十代目金原亭馬生は父、三代目古今亭志ん朝は叔父にあたります。さらに姉は女優の池波志乃、と華麗なる芸能一家です。文章からは、それぞれの人柄が伝わってきます。時代の空気が感じられ、そこに暮らしていた人々の生活が目に浮かびます。

 

志ん生さんが熱心にとりくんだ道楽のひとつに川柳がありました。作中に、志ん生作の川柳も盛り込まれています。こんな一句も。

 

焼きたての秋刀魚に客が来たつらさ (志ん生)

 

う~ん、焼きたてのさんまを前にしてお客様とは・・・志ん生さんでなくてもつらいです。殿様なら迷うことなく、客人より焼きたてさんまを選ぶのではないでしょうか。

 

桑名の刀匠、村正を詠んだ句もありました。

 

悪いこと皆村正のセイにされ  (志ん生)

 

以前のブログでなばなが紹介したように、なんでもかんでも村正のセイにされては、まさに「村正、とばっちり」ですね。

 

ところで「笑い」は心身によい影響があるといわれますが、落語の効用はどんなところにあるのでしょう。
ストレスが解消されて免疫力が上がる?
確かに、笑うと心も身体もほどけていくように感じます。

 

 

『落語に学ぶ人生の処方  “脳が喜ぶ”想像・認知・ユーモア』(結城 俊也/編 日外アソシエーツ 2025.6)

 

 

 

この本では、落語の持つ特徴に触れながら、落語がどのように認知機能や健康の維持に役立つのかが解説されています。具体的な噺を取り上げて、人生を生き抜く知恵も紹介されています。
さらに巻末には、落語に関するブックリストも掲載されています。

 

落語で使う小道具はせいぜい手ぬぐいと扇子。視覚的な情報が少ないため、脳は不足している情報を想像力で補おうと活発に働くのだそうです。つまり、少ない情報が脳を鍛える、と。
嗅覚に関しては、「目黒のさんま」が例に挙げられています。脂ののったさんまの焼ける匂いを想像する時、脳の側頭葉から前頭葉にかけて活性化する、というのです。

 

脳の話はさておき、おいしものを食べて、思いっきり笑うことが身体にいいというのはまちがいないようです。
落語を聴いて、心も身体も解きほぐして、秋を満喫しましょう!

 

 

<紹介資料>
『古典落語入門 ベスト』(古今亭 志ん生/[ほか]口演 King Record 2004.5 CD2枚組)
『親子できこう子ども落語集 [4]』(日本コロムビア 2012.1 CD2枚組)
『古典落語 [正]』(興津 要/編  講談社 2002.12)
『めぐろのさんま』(川端 誠/[作]  クレヨンハウス 2001.12)
『志ん生が語るクオリティの高い貧乏のススメ  昭和のように生きて心が豊かになる25の習 慣』(美濃部 由紀子/[著] 講談社 2019.1)
『落語に学ぶ人生の処方  “脳が喜ぶ”想像・認知・ユーモア』(結城 俊也/編 日外アソシエーツ 2025.6)

<志るべ>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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秋の夜長、なにを読む?

2025年9月11日(木)|投稿者:kclスタッフ

こんにちは、たがねです。

9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続いていますね。体感的には夏気分が抜けませんが、暦の上ではもう秋。期間限定メニューやスイーツで、一足先に秋を感じるようになりました。

 

9月の和風月名(旧暦での呼び名)である「長月」は「夜長月」から付けられたと言われています。秋分の日を過ぎたあたりから冬に向けて日照時間が短くなり、夜が少しずつ長く感じられるようになりますね。そんな夜が長い季節だからこそ、ゆったり過ごす時間が楽しみになります。

 

秋の夜長に楽しめることはいろいろありますが、図書館としてはやっぱり読書をおすすめしたいところ。

でも、いざ読書しようと思っても、読みたい本がなかなか見つからないことはありませんか? 気分を変えて、いつもは選ばないジャンルに挑戦してみたい時もありますよね。

今回は、秋の夜長のお供になる本選びに役立つ本をいくつかご紹介したいと思います。

 

 

まずはこちら、

『人生を狂わす名著50』( 三宅 香帆/著 今日 マチ子/絵  ライツ社 2017.10)

 

新書大賞2025を受賞した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が話題の三宅香帆さんによる書評集です。

本を読むことで考え方や生き方が大きく変わってしまうことを三宅さんは「人生を狂わす」と表現しています。

そんな人生を狂わす名著50冊を、気軽な語り口で紹介。まるで友達とおすすめ本を語り合うような軽やかな文体でスルスル読み進められます。さらに、各章の最後に「次に読みたい本」も3冊ずつ紹介してくれます。きっと気になる本が見つかると思います!

 

図書館には、この本以外にもいろんな書評集があります。書評の本は、請求記号019.9です。ぜひ手に取ってみてくださいね。

 

 

次に紹介するのはこちら、

『ブックデザイン365』( パイインターナショナル/編著  パイインターナショナル 2020.3)

 

本を選ぶ時、表紙に惹かれて思わず手に取ったことはありませんか? 表紙買いするという方も多いと思います。

この本は、文芸書から辞典までさまざまな本の、思わず手に取りたくなる装丁を365冊以上紹介しています。大きな写真とともに、書籍の概要やデザインコンセプトなどの情報がコンパクトにまとまっていて、眺めるだけで楽しい1冊です。ページをめくるたびに「こんな見せ方があるんだ!」と発見があり、本の楽しみ方がちょっと広がります。

この本の中で紹介されている本から気に入ったデザインの表紙を選んで読んでみるのも楽しそうですね。

 

図書館でも、新刊コーナーや展示棚、書架に表紙を見せて並べています。ぜひそちらにも注目してみてください。

 

 

最後に紹介するのはこちら、

『おかしな本棚』( クラフト・エヴィング商會/著  朝日新聞出版 2011.4)

 

この本は、不思議な雰囲気が漂う本棚をテーマにした本です。「頭を真っ白にするための本棚」や「波打ち際の本棚」などのタイトルがついた本棚が写真とともに紹介されています。写真で見えるのは背表紙だけですが、眺めていると「どんな本なんだろう?」と想像が広がっていきます。紹介されている本棚には実在しない本も混じっていますが、ほとんどは実際にある本です。図書館で所蔵している本もあるので、探して読んでみてください。

 

図書館の本棚もずらっと並んだ背表紙を見ているとワクワクしますよね。

特に展示コーナーは定期的にテーマを入れ替えているので、期間限定の本棚が見られます。普段はあまり手に取らないジャンルの本とも出会えるかもしれません。ぜひチェックしてみてください。

 

そして、この図書館ブログでも本選びのお手伝いができるかもしれません。スタッフによるおすすめ本紹介の記事がたくさんあり、カテゴリー「おすすめ本」からまとめてご覧いただけます。過去の記事でもたくさんの本を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

 

それでは、夜更かしはほどほどに!

秋の夜長に充実した読書時間を楽しんでくださいね。

 

 

 

<参考資料>

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅 香帆/著 集英社 2024.4)

『人生を狂わす名著50』(三宅 香帆/著,今日 マチ子/絵 ライツ社 2017.10)

『ブックデザイン365』(パイインターナショナル/編著 パイインターナショナル 2020.3)

『おかしな本棚』(クラフト・エヴィング商會/著 朝日新聞出版 2011.4)

<たがね>

蔵書点検よる休館と貸出期間延長のお知らせ

2025年8月28日(木)|投稿者:kclスタッフ

桑名市立中央図書館は、蔵書点検のため以下の期間休館いたします。
休館に際し、皆さまには大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力をお願いいたします。

 

【中央図書館 休館期間】
9月26日(金)~10月1
日(水)

 

 

※休館期間中の返却は、くわなメディアライヴ1階南側の返却ポストをご利用ください。
ただし、CD、DVD、大型絵本・大型紙芝居、ゆめはま文庫、桑名市外から取り寄せた図書は破損のおそれがありますので、開館日にカウンターへお持ちください。

 

◎期間中の講習室利用について
2階講習室も、休館中(9月26日~10月1日)は、ご利用いただけません。

 

 

また、休館に伴い貸出期間の延長を行います。

 

【図書・雑誌の貸出期間延長】
9月12日(金)~9月25日(木)の貸出 ・・・ 3週間

※桑名市外から取り寄せた図書は、貸出期間が異なります

 

【CD・DVDの貸出期間延長】
9月19日(金)~9月25日(木)の貸出 ・・・ 2週間

 

蔵書点検期間中は、図書館にある資料1冊1冊を専用の機械で読み取り、決められた場所にあるか、なくなってしまった資料はないかを確認する作業を行っています。

 

 

過去のブログでも「蔵書点検」について取り上げたブログが複数あります。
ブログページ内に表示されている「ブログ記事検索」「蔵書点検」と入力いただくと、過去の蔵書点検の様子をご覧いただけます。
今の図書館とは少し違う姿が記録された部分もありますので、ぜひ検索してみてください。

 

 

しばらくの間、休館いたしますが、リフレッシュした図書館を楽しみにお待ちください。

 

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夏と祭り

2025年8月4日(月)|投稿者:kclスタッフ

こんにちは、なばなです。

今年も桑名で石取祭が開催されました。

石取祭は、桑名の町屋川で石を採り、氏神に納める石取という民間行事が祭礼化したものです。

太鼓と鉦で囃しながら、祭車を曳いて回る石取祭。

その騒々しさから、「日本一やかましい祭り」と言われています。

打ち鳴らされる音はかなりのものですが、聞いていると、不思議と真夏に負けないパワーを貰える気がします。

 

祭りで元気になるという感覚は、昔からあったようです。

 

祭りや正月などの特別な行事を意味する「ハレ」という概念があります。

反対に、日常を維持する活力を「ケ」と言います。

「ケ」は、時に心身の不調により欠如します。

この「ケ」が欠如することを「ケガレ(気枯れ)」と言います。

そこで、人々は「ハレ」である祭りによって「ケガレ」を祓い、活力を回復させました。

祭りは、日常で失った気力を回復させる場でもあったのです。

『正月とハレの日の民俗学』宮田 登/著 大和書房 1997.4 より)

 

暑さによる不調が増える夏は、「ケガレ」の状態になりやすい時期だと言えます。

そこで今回は、猛暑で溜まった「ケガレ」を少しでも祓えるよう、「祭り」をテーマにした本を紹介したいと思います。

 

 

まずご紹介するのはこちらです。

 

『江戸に花咲く 時代小説アンソロジー』(宮部 みゆき/著,諸田 玲子/著,西條 奈加/著,高瀬 乃一/著,三本 雅彦/著 文藝春秋 2024.1)

 

こちらは5人の作家による、江戸の祭りをテーマにした短編集。

ミステリーから人情噺まで、祭りのさまざまな側面を描いた物語は、読むほどに引き込まれていきます。

中でもおすすめなのは、宮部みゆきの「氏子冥利」

三島屋の小旦那は、ある日、神田明神で石段から落ちかけた老人を助けます。

老人は何やら事情を抱えている様子。

小旦那が尋ねると、老人は、自分の身に起きた数奇な出来事を語り始めます。

話が進むうちに、ホラーのような緊迫感が高まっていきます。

どんな結末が待っているのか、ぜひ読んで確かめてください。

 

 

続いては、日本の祭りにくわしくなる1冊をご紹介します。

 

『日本の祭り解剖図鑑 四季折々の行事からみる日本文化の魅力』(久保田 裕道/著 エクスナレッジ 2023.8)

 

有名な祭りから地方のマイナーなものまで、日本全国の祭りを紹介しています。

シンプルな図に解説がついた、とてもわかりやすい図鑑です。

祭りの歴史についても書かれていて、日本文化への理解も深まります。

理解が深まると、面白さも倍増するもの。

今まで意識しなかった祭りの場面を、新たな視点で楽しめるようになります。

もっと知りたい、あの名場面が見たい、行ってみたい。

読むほどに、そんな気持ちが湧いてきます。

日本の祭りが、より好きになる1冊です。

 

 

日本だけでなく、世界の祭りを知りたい方には、こちらがおすすめです。

 

『世界の祭りと衣装 The festivals and costumes in the world』(パイインターナショナル/編著 パイインターナショナル 2019.9)

 

タイトル通り、世界の祭りとその衣装の写真を集めた本です。

美しい伝統衣装に奇怪な仮装、カラフルなパレードとはじける笑顔。

一枚一枚が鮮やかで、眺めていると世界中の祭りを見に行きたくなります。

コラムでは、西洋の祭りの解説や各国の仮面の紹介があり、好奇心が刺激されます。

世界の祭りの魅力を存分に伝えてくれる素敵な写真集です。

 

 

最後に紹介するのはこちらの本です。

 

『星祭りの町』(津村 節子/著 新潮社 1996.2)

 

舞台は、第二次世界大戦が終わったばかりの日本。

七夕祭りで有名な町に疎開してきた三姉妹と祖母の暮らしを描いた物語です。

著者の自伝的小説でもあります。

進駐軍の基地となり変貌していく町、先の見えない社会情勢。

淡々と描かれる情景はリアルで、胸に迫ります。

厳しい現実に翻弄されながらも、三姉妹は生きる道を模索し、少しずつ自立していきます。

戦争で中断していた七夕祭りが昔の賑わいを取り戻していく様子は、三姉妹が前に進んでいく姿と重なります。

この夏、ぜひ読んでいただきたい本です。

 

ちなみに、話に登場する七夕祭りは、「狭山市入間川七夕まつり」として現在も開催されています。

今年は終わっていますが、機会があれば行ってみたいですね。

 

暑い夏はまだまだ続きそうです。

実際の祭りはもちろん、本の中の祭りも楽しんで、今年の夏を乗り切りましょう。

 

<紹介・参考資料>

『正月とハレの日の民俗学』(宮田 登/著 大和書房 1997.4)

『江戸に花咲く 時代小説アンソロジー』(宮部 みゆき/著,諸田 玲子/著,西條 奈加/著,高瀬 乃一/著,三本 雅彦/著 文藝春秋 2024.1)

『日本の祭り解剖図鑑 四季折々の行事からみる日本文化の魅力』(久保田 裕道/著 エクスナレッジ 2023.8)

『世界の祭りと衣装 The festivals and costumes in the world』(パイインターナショナル/編著 パイインターナショナル 2019.9)

『星祭りの町』(津村 節子/著 新潮社 1996.2)

<なばな>

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七月六日はサラダ記念日

2025年7月1日(火)|投稿者:kclスタッフ

「この味が いいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
『サラダ記念日』より)

 

 

こんにちは、志るべです。
暑くなってきましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 

俵万智さんの歌集『サラダ記念日』は、一大短歌ブームを巻き起こしました。
出版されたのは昭和62年(1987)。もう38年前になるのですね。
国語の授業で習った、という方もおられるかもしれません。

 

短歌といえば、なじみがあるのはせいぜい百人一首。文語で書かれた歌は、言葉の響きは美しいけれど意味がよくわからない・・・ そんな印象をガラリと変えてくれたのが『サラダ記念日』でした。日々のできごとが今の言葉で詠まれ、失恋だって明るくさらりと表現されています。
「こんな風に詠んでいいんだ!」と新鮮な驚きを感じたものです。毎日を記念日にして、指折りながら言葉をひねり出したりして。

 

時は流れ、今また令和の短歌ブームが起きています。若者の短歌人口もかなり増えているのではないでしょうか。SNSの力は大きいですが、雑誌への投稿も人気があります。

 

最初にご紹介するのはこちら。

 

『すごい短歌部』(木下 龍也/著 講談社 2024.11)

 

文芸誌「群像」の連載記事「群像短歌部」を書籍化したものです。
読者から寄せられた短歌を歌人の木下さんが選び、講評を加えています。木下さんも同じテーマで短歌を詠み、自身の作品は完成形だけでなく、最初にできた短歌から完成作品までを順に並べ、変化を分析しています。作品作りの手の内を見せてくれることで、作者が何を感じ、どのように推敲していったのかがわかるようになっています。テーマに合わせて詠むにはどうすればいいのか等、短歌初心者へのヒントも示されています。とはいえ、短歌に公式はないのだそうです。

 

ところで、短歌を詠むには題材が必要です。
短歌や俳句の世界では、題材を求めて「吟行」という名の遠足に出かけます。
次の1冊はこちら。

 

『短歌遠足帖』(東 直子/著,穂村 弘/著,岡井 隆/[ほか述] ふらんす堂 2021.2 )

 

 

歌人のお二人、東直子さんと穂村弘さんがゲストとともに短歌遠足に出かけます。どこかに出かけ、何かを見て、会話をして、短歌を詠んで、感想を伝えあう、そんな様子がつづられています。

 

歌人の岡井隆さんと行く動物園への遠足に始まり、小説家の朝吹真理子さんと鎌倉へ、脚本家の藤田貴大さんと東京タワーへ、漫画家の萩尾望都さんと上野公園へ、そして最後は芸人の川島明さんと行く大井競馬場で締めくくられています。

 

仲間とどこかに出かけて短歌を詠む「短歌遠足」、なんだか楽しそうですね。
ただし、その場で詠んで発表するというのは、かなりのプレッシャーではありますが。

 

歌人の穂村さんといえば、前回のブログで「たがね」が紹介したあんこのエッセイ「あんパン」(『ずっしり、あんこ』に収録)を書かれた方です。穂村さんは絵本もたくさん翻訳しています。どうしても絵本のつづきを読んでほしいオオカミのお話『このほんよんでくれ!』は言葉と絵がぴったりで、翻訳であることを忘れてしまいます。穂村さん人気です。

 

最後にご紹介するのは短歌を題材とした小説です。

 

 

『うたうとは小さないのちひろいあげ』(村上 しいこ/著 講談社 2015.5)

 

 

高校生の桃子は、親友の綾美が不登校になった原因は自分にあるという思いを抱えながら学校生活を送っていました。そんな桃子があるきっかけで「うた部」に入部することになり、うた部での人や短歌との出会いによって桃子も、そして綾美も変わっていきます。

 

著者の村上しいこさんは三重県の方で、子どもたちに向けて数々の作品を発表されています。
村上さんは、平成13年(2001)に毎日新聞《小さな童話大賞》で「俵万智賞」を受賞し、それかきっかけで童話作家としてデビューされました。それから14年がたち、『うたうとは小さないのちひろいあげ』が出版されました。短歌とのご縁を感じますね。
あとがきには、「あの時、賞に選んでくれた俵万智先生に少しは恩返しができるような作品になったかな」と書いておられます。

 

ちなみにこのお話の中で短歌遠足はピクニック短歌、「ピク短」という言葉で表現されています。
みなさまも「短歌遠足」もしくは「ピク短」に出かけて、一首いかがでしょうか。

 

 

 

<紹介・参考資料>
『サラダ記念日』(俵 万智/著 河出書房新社 1987.5)
『すごい短歌部』(木下 龍也/著 講談社  2024.11)
『短歌遠足帖』(東 直子/著,穂村 弘/著,岡井 隆/[ほか述]  ふらんす堂 2021.2 )
『うたうとは小さないのちひろいあげ』(村上 しいこ/著 講談社 2015.5)
『ずっしり、あんこ』(青木 玉/[ほか]著 河出書房新社 2015.10)
『このほんよんでくれ!』(ベネディクト・カルボネリ/文,ミカエル・ドゥリュリュー/絵,ほむら ひろし/訳 クレヨンハウス 2019.7)

<志るべ>

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