#kclスタッフおすすめ本 『ロスト・シング』
2022年7月29日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 とにかく読んで欲しい 】
『ロスト・シング』
(ショーン・タン/著,岸本 佐知子/訳 河出書房新社 2012年刊)
思い立って、埃まみれの古びた勉強机の掃除を始めたことがあります。
不用品の山が、机の上やら引出しの奧から出てくる出てくる…
もっとも、当時小学生か中学生か、はたまた高校生か。
その頃の私にとっては忘れ難い思い出の品々だったのでしょう。
プレゼントで貰ったままの包装紙と箱ごと保管してあった時計は、すっかり針を刻むのを止めていました。
そうして忘れ去られていた遺物たちですが、眺めていればおぼろげにでも昔の記憶が蘇ってくるものだなと僅かな感心と懐かしさに浸っていたら、一日が終わっていた経験があります。
『ロスト・シング』
日本語に訳すと「迷子」や「落とし物」「失せもの」といった意味になるそうです。
ショーン・タンの初期作品に連なるこの代表的な絵本は、タン自身の手で映像化もされており、短編アニメーションとしても評価の高い大人絵本となっています。
そのタイトルの通り、奇妙な形をした「迷子」が、失ってしまった居場所を探すお話です。
主人公の少年と「迷子」は居場所を探して街中を徘徊しますが、忙しい大人の目に迷子の存在は映りません。
私の勉強机のように、形の残る思い出の品や記憶の奧深くに仕舞い込んでしまった大切な思い出と同じで、見えなければ無いのと同じ…
見えなくてもいい存在に気を留めない大人たちの様子に、チクッと刺さる何かがあります。
そんな何かを忘れてしまった大人たちへ向けた本書は、懐かしくもどこかディストピア感溢れる魅力を秘めています。
徐々に落とす側の大人になっていく自分と、忘れられたものたちの行方。はたしてこの両者は誰の物語なのでしょうか。
読後の余韻まで楽しんでいただける作品です。
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『ロスト・シング』
▼出版社
河出書房新社
▼書影画像元
版元ドットコム
※次回更新は2022年8月5日(金)の予定です
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