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#kclスタッフおすすめ本 『国語辞典を食べ歩く』
2022年8月26日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 雑学 】
『国語辞典を食べ歩く』
(サンキュータツオ/著 女子栄養大学出版部 2021年刊)
血の通わない無機質なものがイケメンになったり、人間以外の哺乳類がかわいい女の子になったり、挙句の果てに人を形成する細胞が人間になっているという、「ちょっと何言ってんだかわからない」状況が横行している昨今…そう、擬人化です。
そんな擬人化が、なぜここまでもてはやされているのか?
それは、その対象が持っている個性を人の性格や風貌に例えることによって、より分かりやすく、より身近に感じることが出来るからなのではないかと思います。
今回ご紹介する、この『国語辞典を食べ歩く』は、食べ物にまつわる言葉を色々な国語辞典で引いて比較しています。
その国語辞典の持つ特徴を、人の性格のように見立て、とても分かりやすく説明しているのです。
たとえば、岩波国語辞典は「歴史好きで保守派の優等生」と謳っており、引いた言葉に対して「岩波君の味気のなさよ」や「そっ気ないこと!」などの作者の合いの手が入ったりします。
いわゆる「堅物」なイメージなのでしょうか。
一方、三省堂国語辞典は「新しい言葉に敏感な現代っ子」とされ、「用例採取で有名な三省堂」と言われている三省堂の性格をうまく表現しており、SNSを屈指しているイマドキの若者といった感じです。
更に、新明解国語辞典は「ワイルドで親切な個性派」、明鏡国語辞典は「雑学にも強いスマートな食通」とされ、「小型国語辞典ビック4」として紹介しています。
新明解は「キテレツな」「エクストリーム」「あくが強い」と、かなりの言われよう。
しかし、それは作者のリスペクト故のひねた愛情表現だと思います。
実際本文の中での新明解の活躍は目を見張るものがあるほどですあります。
明鏡はとにかく「グルメ」。
種類や製法にこだわりがある文体が多く、この題材にはぴったりの国語辞典です。
そして脇を固めるのが、中型辞書の「広辞苑」「大辞林」「大辞泉」、大型辞書の「日本国語大辞典」で、中型辞書は「兄貴分」の形容詞がついています。
いざという時、「じゃあお兄さんに聞いてみようか」という年長者の風格すら感じさせます。
そんな辞典を使って、同じ言葉を引いて比較しているのです。
「辞典なんてどれも同じ」
「古いものも新しいものも一緒」
その概念が覆ります。
しかも私たちが親しみやすい「食べ物」に特化しているのも、分かりやすい題材の要因の1つだと思います。
グルメに関する話題は多くの人が好むものですよね。
「食べ物」の題材もハンバーグやカレーのような「人気メニュー」だったり、
納豆や冷ややっこなど昔ながらの「和のおかず」
プリンやようかんなど「おやつ」
ラーメンなどの「めん類」
さらにスライサーなどの「食具」
塩梅やあくのような「食べる言葉」など幅広いものとなってます。
例えば、冒頭に紹介している「ハンバーグ」。
作者は最近訪れたハンバーグ屋さんで、平べったい形ではなく、丸っこい俵形のものがでてきたことからそれぞれの辞書がハンバーグの形をどう記述しているのかを調べようと思いつき、それぞれの辞典の記述を紹介しています。
結果、「明鏡君は楕円形」「新明解君は平たく丸い形」「三省堂くんは小判形」「岩波君は形に触れずフライパンで焼いたという条件をつけてきた!」と知りたいことにプラスアルファな情報を得たことに満足している感じでした。
この本の特徴として、辞典を比較することにより、どんどん情報を掘り下げていき、思わぬ方向に結果が生れるといったようなことがあり、「へぇ、そうだったんだ!」と作者と一緒になって感じることが、何よりの醍醐味となってます。
この醍醐味という言葉も作者は辞典を引いていますので、是非、それぞれの辞典がどのように記述されているのか、ご覧になってみてください。
読み終えて、私が一番心に引っかかったのが、その「ハンバーグ」項目での明鏡国語辞典の記述です。
『牛のひき肉に玉ねぎの微塵霧切?や卵・パン粉などを加えてこね、楕円形にまとめて焼いたもの▼「ハンバーグステーキの略」
作者の方もスルーだったのですが、「牛のひき肉」と断言しているのはこの明鏡だけだったんですよね…さすがグルメの明鏡…
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『国語辞典を食べ歩く』
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女子栄養大学出版部
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※次回更新は2022年9月9日(金)の予定です
#kclスタッフおすすめ本 『にほんでいきる』
2022年8月19日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 社会を考える 】
『にほんでいきる』
(毎日新聞取材班/編 明石書店 2020年刊)
「にほんでいきる」
この言葉にどんなことを思い浮かべますか?
本書は毎日新聞社による外国籍の子どもたちの就学に関する調査データや、行政機関などへの取材、子どもたちやその支援者へのインタビューなどをまとめたものです。
このキャンペーン報道を受けた文部科学省の調査から、「就学不明」の状態にある外国籍児童は全国で約2.2万人いることがわかりました。
冒頭で、桑名市に程近いまちで起きた事件が取り上げられています。
外国籍のため義務教育の対象でなかったため行政のモニタリングからはずれてしまい、虐待の末に6歳の女の子が命を落としました。
わたしも当時このニュースに接していたはずですが、それを社会問題として受け止める認識に欠けていたことを痛感しました。
通学したとしても日本語能力が不十分なことから、「発達障害」があるとされて特別支援学級に通う現状や、保護者の収入が不安定で子どもたち自身が働かなければならず、学びの場からドロップアウトして犯罪に巻き込まれるケースなどもあり、彼らが置かれた困難な状況が浮き彫りになっています。
桑名市には2021年時点で4,666人の外国の方が生活しています。
「『にほんでいきる』という言葉が、過酷さを物語るものではなく、すべての子どもたちが安心して学び、育っていけることを象徴する言葉になってほしい」
そう願うこの本を手がかりに、同じ「にほんでいきる」ひとりとして、一緒に社会について考えてみませんか。
【参考資料】
三重県ホームページ
「R3外国人住民数調査結果詳細」 (PDFファイルで開きます)
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『にほんでいきる』
▼出版社
明石書店
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※次回更新は2022年8月26日(金)の予定です
#kclスタッフおすすめ本 『翼を持つ少女』
2022年8月12日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 とにかく読んでほしい 】
『翼を持つ少女』
(山本 弘/[著] 東京創元社 2014年刊)
皆様は、ビブリオバトルというものをご存じでしょうか。
ビブリオバトルは知的書評合戦とも呼ばれる、本の紹介コミュニケーションゲームです。
今回紹介させていただく『翼を持つ少女』では、美心国際学園(BIS)高等部へ編入してきた少女・伏木空が、同級生・埋火武人に誘われ、ビブリオバトル部に入部することになります。
空はSF小説が大好きで、面白いSF小説のストーリーの感動や興奮を紹介したい、共感して欲しいと胸に秘めていました。
初めてのビブリオバトルに、自分の好きなSFに興味を持って貰えるのではないかと期待をしながら挑みます。
この作品の中には実際に発行されている本が多く紹介されています。
空が大好きなSF小説の他に、自伝、漫画、雑学書など多種多様な本が登場し、登場人物たちがユーモアを交えながら紹介してくれます。
きっと皆様も、この作品を通して「面白そう!」「読んでみたい!」と思える本と出会うことが出来るのではないでしょうか。
また、この本を読んだ後には、是非、家族や友達と一緒にビブリオバトルを開いて遊んでみてください。
自分の好きな本を紹介することの楽しさや、他の人の発表では、その人の今まで知らなかった一面が見えてくるかもしれません。
~ビブリオバトル公式ルール~
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発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる.
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順番に1人5分間で本を紹介する.
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それぞれの発表の後に,参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分間行う.
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全ての発表が終了した後に,「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員が1人1票で行い,最多票を集めた本をチャンプ本とする.
【参考サイト】
知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト
中央図書館でも、10月にビブリオバトルを開催します!
詳細はこちらをご覧ください。
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『翼を持つ少女』
▼出版社
東京創元社
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※次回更新は2022年8月19日(金)の予定です
#kclスタッフおすすめ本 『あさって町のフミオくん』
2022年8月5日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 ファンタジー 】
『あさって町のフミオくん』
(昼田 弥子/作,高畠 那生/絵 ブロンズ新社 2018年刊)
この本の舞台は、小学3年生のフミオくんが住む【あさって町】です。
【あさって町】がどんな町かですって?
そこは不思議で、へんてこがあふれている奇妙キテレツな町です。
そんな町に住んでいるフミオくんの日常は、もちろん“普通”とは違います。
ある冬休み、フミオくんは、おばあちゃんの家に泊まりに行きましたが、
「テーブルにひじをつくんじゃないよ」
「おみそしるのネギも残さずたべるんだよ」
「冬休みだからって、だらだらすごしちゃいけないよ」
と毎日、毎日、同じ事ばかり注意されます。
すると、なんとフミオくんの右耳に本物のタコができてしまいます!
これがホントの耳にタコ??
さて、フミオくんの右耳は、タコは、どうなってしまうのでしょうか?
他にも、シマウマに自分の子供だと間違えられたり、ガイコツになったおじさんと町民プールにいったり、学校の帰り道に一足の運動靴から「おいらたちを、はけよ」と声をかけられたり・・・と、へんてこばかり。
お話は全部で4話収録されており、どのお話もクスッと笑え、本を読むのが苦手なお子様にも気軽に読んでいただけます。
ぜひ『あさって町のフミオくん』を読んで、へんてこな日常をお楽しみください。
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『あさって町のフミオくん』
▼出版社
ブロンズ新社
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※次回更新は2022年8月12日(金)の予定です
#kclスタッフおすすめ本 『ロスト・シング』
2022年7月29日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 とにかく読んで欲しい 】
『ロスト・シング』
(ショーン・タン/著,岸本 佐知子/訳 河出書房新社 2012年刊)
思い立って、埃まみれの古びた勉強机の掃除を始めたことがあります。
不用品の山が、机の上やら引出しの奧から出てくる出てくる…
もっとも、当時小学生か中学生か、はたまた高校生か。
その頃の私にとっては忘れ難い思い出の品々だったのでしょう。
プレゼントで貰ったままの包装紙と箱ごと保管してあった時計は、すっかり針を刻むのを止めていました。
そうして忘れ去られていた遺物たちですが、眺めていればおぼろげにでも昔の記憶が蘇ってくるものだなと僅かな感心と懐かしさに浸っていたら、一日が終わっていた経験があります。
『ロスト・シング』
日本語に訳すと「迷子」や「落とし物」「失せもの」といった意味になるそうです。
ショーン・タンの初期作品に連なるこの代表的な絵本は、タン自身の手で映像化もされており、短編アニメーションとしても評価の高い大人絵本となっています。
そのタイトルの通り、奇妙な形をした「迷子」が、失ってしまった居場所を探すお話です。
主人公の少年と「迷子」は居場所を探して街中を徘徊しますが、忙しい大人の目に迷子の存在は映りません。
私の勉強机のように、形の残る思い出の品や記憶の奧深くに仕舞い込んでしまった大切な思い出と同じで、見えなければ無いのと同じ…
見えなくてもいい存在に気を留めない大人たちの様子に、チクッと刺さる何かがあります。
そんな何かを忘れてしまった大人たちへ向けた本書は、懐かしくもどこかディストピア感溢れる魅力を秘めています。
徐々に落とす側の大人になっていく自分と、忘れられたものたちの行方。はたしてこの両者は誰の物語なのでしょうか。
読後の余韻まで楽しんでいただける作品です。
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『ロスト・シング』
▼出版社
河出書房新社
▼書影画像元
版元ドットコム
※次回更新は2022年8月5日(金)の予定です