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KCLスタッフブログ ~ブックとラック~

2022年9月23日(金)AM12:00|投稿者:KCLスタッフ

#kclスタッフおすすめ本 『本日のメニューは。』

【 気軽に読む 】

『本日のメニューは。』
(行成 薫/著 集英社 2019年刊)

 

 

自分はお腹に心がある人間なのかもしれない。
料理がテーマの本を読むと、よくそう思います。
アツアツの湯気、ほおばる描写。
本に出てくる食べ物というのは、何故か皆とても美味しそうに見えます。
大して凝った料理でなくても不思議と「食べたーい」という気持ちにさせてくれるグルメの本が私は大好きです。

 

そして、そんなご飯に特に合うと思うのが、料理を取り巻く人間の人情ストーリー。
情と飯のマリアージュ、まさに絶品の一皿のような組み合わせです。

 

もちろん、これは私個人の感想なので、共感しない方も多いかもしれません。
ですが、もし「ちょっとわかる…」という方がいたら是非読んで欲しい本がこちら。

 

短編集『本日のメニューは。』です。

 

収録された短編は全部で5つ。その全てが一つの料理を中心に描かれています。
ラーメン、おにぎり、ロコモコ丼…出てくる料理は誰もが知っていて、愛されるようなものばかり。
そこに絡むのは、少しほろ苦い、でもどこにでもある現実と、それに負けないほど厚くてほろりと優しい人の情。
この配合がまた絶妙で、気づけば物語に引き込まれて、彼らの奮闘や涙に共感し、読み終えた後は、お腹がほっこり温まるような満足感が広がります。

 

そして何より料理の描写が本当に美味しそう。
「海苔がぱつんとはじける」おにぎりなど、よく知る料理だからこそ、これ絶対美味しいやつだ!と想像できてしまう見事な描写は憎たらしいほどですが、読まずにはおれません。
読めばお腹がすくのに、読み終えればお腹も心も満たされる。
グルメ小説の好きな人にはぜひ読んで欲しい。でも、そうでなくても、興味があれば一度は読んで欲しい。
そう思える逸品です。

 

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『本日のメニューは。』

 

▼出版社
集英社

 

▼書影画像元
版元ドットコム

 

 

 

※次回更新は2022年10月7日(金)の予定です

2022年9月9日(金)AM12:00|投稿者:KCLスタッフ

#kclスタッフおすすめ本 『こんぴら狗』

【 とにかく読んで欲しい 】

『こんぴら狗』
(今井 恭子/作,いぬんこ/画 くもん出版 2017年刊)

 

私は犬を飼っています。とてもやんちゃな性格なので、いつも目が離せません。
どこの家も同じだと思うのですが、犬や猫一匹で旅に出すなんて恐ろしい事、実行できませんよね。
ですが、江戸時代には犬だけで旅をさせることがあったそうです。

 

 

お伊勢参りをする「おかげ犬」は、長旅できない主人の代わりに一匹で伊勢まで旅したと言われています。

『犬の伊勢参り』
(仁科 邦男/著 平凡社 2013年刊)

『犬の伊勢参り』によると、江戸時代後期の大名、松浦静山は、日光東照宮へ参った帰り道で赤毛の参代犬に遭遇したそうです。
その犬は木札を首にかけ、紐には多くの小銭を通していました。
この赤犬と共にいた人が言うには、奥州からお伊勢参りをしているらしい。
共にいた人も犬が誰に木札を付けられたのかは知らず、とりあえずお伊勢参りに行く犬なのであれば日光までは一緒に連れて行ってあげようということで共にいたそうです。

 

そして数日後、松浦静山は早朝に再び赤犬と出会います。
静山が乗った輿の隣を、吠えもせず、また余所の犬に吠えられることもなくついてきました。
そうして過ごすうち、いつの間にか赤犬は消え、どこかに行ったようです。
静山は、犬が人の手を借りずに伊勢神宮へお参りをしていたことを珍しく思い、自らの随筆に書き記しました。

 

こういった資料が他にもいくつか残っていて、私はとても驚きました。
実際旅した犬たちは、どんな様子だったのだろう…。
どんな感じで江戸から伊勢へ、そしてまた江戸へ帰っていたのか…。

 

 

そこで『こんぴら狗』を紹介したいと思います。
この本は、江戸時代、裕福な商人の家で飼われていた犬・ムツキが、主人の代わりにこんぴら参りをするというお話です。
ムツキの飼い主である線香問屋「郁香堂」の跡継である長男が病で帰らぬ人となり、その翌年にはムツキを可愛がっていた娘、弥生も病になったため、ムツキは弥生の快癒を祈願する「こんぴら狗」としてこんぴら参りに向かうことになりました。

 

この本は、『犬の伊勢参り』に書いてあるような事がしっかりとしたストーリーで描かれていて、感情移入しながら読むことができました。
ムツキもたくさんの人たちに助けられ、いくつもの困難を乗り越えてこんぴら参りをやり遂げます。
中でも印象的なエピソードは、ムツキが三重県を通過する時のことです。

 

伊勢湾を船で渡る際、大嵐にあい、同行していたご隠居が風邪をひいてしまいます。
ムツキが心配そうにご隠居の様子を見るシーンがとても胸にぐっときました。
鈴鹿山脈を越えてもご隠居の体調は戻らず、このあたりからムツキにとってつらく悲しい旅路となっていき、ついにはご隠居も帰らぬ人となってしまいます。

 

ひとりになったムツキは、このあとどのようにして金毘羅までたどり着き、江戸へ帰還するのか…
この部分はぜひ読んでいただければと思います。

ひとつ言えることは、犬好きなら感動で号泣すること間違いなしです!興味がある人はぜひお手に取ってみてください。

 

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『こんぴら狗』
『犬の伊勢参り』

 

▼出版社
くもん出版 (こんぴら狗)
平凡社 (犬の伊勢参り)

 

▼書影画像元
版元ドットコム

 

 

 

※次回更新は2022年9月23日(金)の予定です

2022年9月1日(木)AM12:00|投稿者:KCLスタッフ

~旅の形いろいろ~

こんにちは、「志るべ」です。
昼間はまだまだ暑いですが、夜になると虫の声がきこえてくるようになりました。
みなさまいかがお過ごしでしょうか?
そろそろ旅に出かけたくなる季節ですね。とはいえ諸事情があって、なかなかそうもいきません。
そんな時には「住み慣れた桑名の町を旅の気分で歩いてみませんか?」と以前ご提案しましたが、今回は、海外へ飛んでみるというのはいかがでしょう?

 

「人生はどこでもドア」なのだそうです。考えてみれば、「図書館もどこでもドア」かもしれません。本を開けばどこにでも行けるし、お金もかかりません。図書館は本を通して世界につながっています。

 

最初の一冊はこちら、
『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(稲垣 えみ子/著 東洋経済新報社 2018.11)

 

『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(稲垣 えみ子/著 東洋経済新報社 2018.11)

 

 

著者の稲垣さんは元朝日新聞社の記者で、論説委員、編集委員をつとめ、50歳を機に早期退職されました。
退職した経緯やその後の生活については、『魂の退社 会社を辞めるということ。』(稲垣 えみ子/著   東洋経済新報社  2016.6)『寂しい生活』(稲垣 えみ子/著  東洋経済新報社  2017.6)に書かれています。
東日本大震災による原発事故後は超節電生活に取り組み、次々と家電を手放し、最後に冷蔵庫の線を引き抜くところは圧巻です。
アフロヘアがお似合いの稲垣さんですが、なんでもこのヘアスタイルにした途端に「モテ期」が到来したとか。

 

稲垣さんはこれまでガイドブックに従って美術館やお店を巡る旅をしながら、何かもやもやしたものを感じていました。
旅に出たからといって、日々興味を持っていないことに急に興味が持てるわけじゃない。
それならば逆に普段から興味を持っていることを貫けば、どこへ行っても深い体験ができるんじゃないかと気づきます。
稲垣さんが普段から真剣にやっているもの、それは料理を作って、洗濯して、掃除をして、近所で買い物したり顔見知りに挨拶したり、そう「生活」でした。
観光はしない。旅の目標を「普段の生活」をすることと決めて、フランス第二の都市リヨンへ向かいます。
はたしてどんな旅になったのでしょう?

 

次は、カナダへGO!
『カナダの謎 なぜ『赤毛のアン』はロブスターを食べないのか?』(平間 俊行 /著   日経ナショナルジオグラフィック社 2019.4)

 

もともと報道の世界にいた平間さんは、偶然仕事で取材したカナダに「はまって」しまいます。
それ以来何度もカナダを訪れ、日本ではほとんど知られていないカナダについて原稿を書き続けました。
「どうしてカナダはこんなにうまくいっているのか、どうして世界中から愛されているのか」
「カナダの謎」を解くカギはカナダの温かな「国づくり」の中にあるそうです。「謎」をひとつひとつ解いていくうちに、カナダの歴史が見えてきます。

 

サブタイトルにある「なぜ『赤毛のアン』はロブスターを食べないのか?」
この謎にも、フランス領からイギリス領となったカナダの歴史が反映されているのでした。
日本に住む私たちは普段いかに民族を意識することなく暮らしているか、改めて感じさせられます。

 

さて次はあこがれの北欧、フィンランドへようこそ。
森と湖、サンタクロース、ムーミン、社会保障が充実していて、教育水準が高くて、男女格差がなくて・・・フィンランドへの期待は高まります。

 

『フィンランド森と街に出会う旅』(鈴木 緑/文・写真 東京書籍 2006.10)

 

『フィンランド森と街に出会う旅』(鈴木 緑/文・写真 東京書籍 2006.10)

 

 

著者の鈴木さんによると、フィンランドほど、どれだけ本を読んでも、人の話を聞いても自分の目で見て経験しないと分からない国はないそうです。
まずは、この本を読んで、行ってみたいと感じるかどうか。
そして「行ってやろうじゃないの」と思った人は「ヘビーなリピーター」になるといいます。
フィンランドは公用語がフィンランド語とスウェーデン語の二か国語。
フィンランド系フィンランド人とスウェーデン系フィンランド人がいるのだそうです。
おとぎの国のようなイメージがあるフィンランドですが、それだけではない部分も含めて「フィンランドが好き」と語っています。

 

ヘルシンキの街角にある日本人女性が店主をつとめる「かもめ食堂」も、映画になりましたね。

『かもめ食堂』(群 ようこ/著 -- 幻冬舎 -- 2006.1)

 

 

 

『かもめ食堂』(群 ようこ/著  幻冬舎 2006.1)

 

 

 

フィンランドを別の角度から紹介した一冊がこちら、

『国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由』(古市 憲寿/著,トゥーッカ・トイボネン/著  マガジンハウス 2015.6)

 

『国家がよみがえるとき』(古市  憲寿/著,トゥーッカ・トイボネン/著 マガジンハウス 2015.6)

 

 

「どれほど桃源郷のように見える国であっても、それぞれの葛藤があり、社会問題がある」という古市さん。
けれど「決して完璧な国ではない。しかし現実に起こっている問題に対して、柔軟に解決策を見つけていこうという姿勢と、変わり続けていく勇気をフィンランドは持ち続けてきた」といいます。

 

イメージにとらわれて、世界の国について何も知らないことに愕然とします。
でも一冊の本を手に取ると、その先にはまたドアがあって次の世界へと導いてくれます。やっぱり図書館はドアだらけ・・・

 

次のドアを開くと、そこは「世界一幸せな国」、ブータンです。
『給食のおばさん、ブータンへ行く!』平澤 さえ子/著 -- 飛鳥新社 -- 2017.1

 

学校給食の調理員として30年働いてきた平澤さん。
「ブータンで給食の改善をしてみない?」と声をかけられ、「給食の改善?」「ブータン?」、降ってわいた話にとまどいながらも気づいたら「行きます」と即答していました。
ブータン南部のサルバン県にあるゲレフの高校で3週間給食の改善のお手伝いをするというのが任務。実は平澤さん、以前に一度ブータンへ行ったことがあり、その時に一目惚れ。その後、来日された若き第5代ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王の姿を見て、すっかりブータンに夢中になったのでした。
ブータン大好きな平澤さんではありますが、現地での生活はいかに・・・
巻末には、簡単につくれる「ブータン料理」&「人気の給食」レシピが紹介されています。

 

そんなブータン、写真で見たいですね。
『赤瀬川原平のブータン目撃』(赤瀬川 原平/著   淡交社  2000.9)

 

写真とエッセイで綴られた一冊。ブータンの「空気」が伝わってきます。
赤瀬川さんがブータンに行こうと思ったきっかけもワンチュク国王でした。
ただし赤瀬川さんが魅せられたのは、昭和天皇の大喪の礼に参列した先代のジグミ・シンゲ・ワンチュク国王。
「昔の日本人よりキリッとしていて」、「日本人より日本人的」と感じたそうです。ブータンは、「日本と似たところもあるけど、ぜんぜん違うところがあって、やはりそこに憧れる」と語っています。

 

最後に、旅を描いた小説を一冊ご紹介します。
『旅する練習』(乗代 雄介/著 講談社 2021.1)

 

 

『旅する練習』(乗代 雄介/著 講談社 2021.1)

 

 

サッカー少女と小説家の叔父が徒歩で、千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指すというお話。
芥川賞候補にもなり、三島由紀夫賞を受賞した作品なので、ご存じの方も多いかもしれません。
中学受験を無事終えた亜美は叔父の「私」に、ある相談をします。
去年の夏に行った鹿島の合宿所の本棚からこっそり持ってきたままになっている文庫本、それを返しに行きたいと。
「私」は一つの提案をします。それは、サッカーの練習をしながら、宿題の日記を書きつつ、歩いて鹿島を目指す、というものでした。
ただし条件が一つ、旅の途中、小説家である「私」は風景描写の練習をするので、その間、亜美はおとなしくボールを蹴って待つこと。
「歩く、書く、蹴る」ふたりの練習の旅が始まります。

 

我孫子から鹿島まで、どれくらいあるのでしょう?
作品の中では「もたもたしなかったら四、五日ぐらいかな」とありますが・・・
最後のページを読み終えた時、もう一度振り返って読みたくなりました。
読み返すと、最初は気づかなかった部分に気づき、景色が違って見えてきます。

 

旅の形はいろいろ、旅の魅力もいろいろ。
さあ、次はどこに行きましょうか?
図書館にはまだまだたくさんのドアがありますから。

 

<紹介資料>
『人生はどこでもドア リヨンの14日間』稲垣 えみ子/著 東洋経済新報社 2018.11  /293.5/イ/
『魂の退社 会社を辞めるということ。』 稲垣 えみ子/著   東洋経済新報社  2016.6  /916/イ/
『寂しい生活』 稲垣 えみ子/著  東洋経済新報社  2017.6  /916/イ/
『カナダの謎 なぜ『赤毛のアン』はロブスターを食べないのか?』 平間 俊行 /著  日経ナショナルジオグラフィック社 2019.4  /295.1/ヒ/
『フィンランド森と街に出会う旅』鈴木 緑/文・写真 東京書籍 2006.10  /293.8/ス/
『かもめ食堂』 群 ようこ/著   幻冬舎   2006.1  /913.6/ムレ/
『国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由』 古市 憲寿/著,トゥーッカ・トイボネン/著  マガジンハウス 2015.6  /302.3/フ/
『給食のおばさん、ブータンへ行く!』平澤 さえ子/著   飛鳥新社  2017.1  /292.5/ヒ/
『赤瀬川原平のブータン目撃』 赤瀬川 原平/著   淡交社  2000.9  /748/ア/
『旅する練習』乗代 雄介/著 講談社 2021.1  /913.6/ノリ/

<志るべ>

 

 

 

 

 

 

2022年8月26日(金)AM12:00|投稿者:KCLスタッフ

#kclスタッフおすすめ本 『国語辞典を食べ歩く』

【 雑学 】

『国語辞典を食べ歩く』
(サンキュータツオ/著 女子栄養大学出版部 2021年刊)

 

血の通わない無機質なものがイケメンになったり、人間以外の哺乳類がかわいい女の子になったり、挙句の果てに人を形成する細胞が人間になっているという、「ちょっと何言ってんだかわからない」状況が横行している昨今…そう、擬人化です。

 

そんな擬人化が、なぜここまでもてはやされているのか?
それは、その対象が持っている個性を人の性格や風貌に例えることによって、より分かりやすく、より身近に感じることが出来るからなのではないかと思います。

 

今回ご紹介する、この『国語辞典を食べ歩く』は、食べ物にまつわる言葉を色々な国語辞典で引いて比較しています。
その国語辞典の持つ特徴を、人の性格のように見立て、とても分かりやすく説明しているのです。

 

たとえば、岩波国語辞典「歴史好きで保守派の優等生」と謳っており、引いた言葉に対して「岩波君の味気のなさよ」や「そっ気ないこと!」などの作者の合いの手が入ったりします。
いわゆる「堅物」なイメージなのでしょうか。

 

一方、三省堂国語辞典「新しい言葉に敏感な現代っ子」とされ、「用例採取で有名な三省堂」と言われている三省堂の性格をうまく表現しており、SNSを屈指しているイマドキの若者といった感じです。

 

更に、新明解国語辞典「ワイルドで親切な個性派」明鏡国語辞典「雑学にも強いスマートな食通」とされ、「小型国語辞典ビック4」として紹介しています。

 

新明解「キテレツな」「エクストリーム」「あくが強い」と、かなりの言われよう。
しかし、それは作者のリスペクト故のひねた愛情表現だと思います。
実際本文の中での新明解の活躍は目を見張るものがあるほどですあります。

 

明鏡はとにかく「グルメ」
種類や製法にこだわりがある文体が多く、この題材にはぴったりの国語辞典です。

 

そして脇を固めるのが、中型辞書の「広辞苑」「大辞林」「大辞泉」、大型辞書の「日本国語大辞典」で、中型辞書は「兄貴分」の形容詞がついています。
いざという時、「じゃあお兄さんに聞いてみようか」という年長者の風格すら感じさせます。

 

そんな辞典を使って、同じ言葉を引いて比較しているのです。
「辞典なんてどれも同じ」
「古いものも新しいものも一緒」
その概念が覆ります。

 

しかも私たちが親しみやすい「食べ物」に特化しているのも、分かりやすい題材の要因の1つだと思います。
グルメに関する話題は多くの人が好むものですよね。
「食べ物」の題材もハンバーグやカレーのような「人気メニュー」だったり、
納豆や冷ややっこなど昔ながらの「和のおかず」
プリンやようかんなど「おやつ」
ラーメンなどの「めん類」
さらにスライサーなどの「食具」
塩梅やあくのような「食べる言葉」など幅広いものとなってます。

 

例えば、冒頭に紹介している「ハンバーグ」。
作者は最近訪れたハンバーグ屋さんで、平べったい形ではなく、丸っこい俵形のものがでてきたことからそれぞれの辞書がハンバーグの形をどう記述しているのかを調べようと思いつき、それぞれの辞典の記述を紹介しています。
結果、「明鏡君は楕円形」「新明解君は平たく丸い形」「三省堂くんは小判形」「岩波君は形に触れずフライパンで焼いたという条件をつけてきた!」と知りたいことにプラスアルファな情報を得たことに満足している感じでした。

 

この本の特徴として、辞典を比較することにより、どんどん情報を掘り下げていき、思わぬ方向に結果が生れるといったようなことがあり、「へぇ、そうだったんだ!」と作者と一緒になって感じることが、何よりの醍醐味となってます。
この醍醐味という言葉も作者は辞典を引いていますので、是非、それぞれの辞典がどのように記述されているのか、ご覧になってみてください。

 

読み終えて、私が一番心に引っかかったのが、その「ハンバーグ」項目での明鏡国語辞典の記述です。

『牛のひき肉に玉ねぎの微塵霧切?や卵・パン粉などを加えてこね、楕円形にまとめて焼いたもの▼「ハンバーグステーキの略」

作者の方もスルーだったのですが、「牛のひき肉」と断言しているのはこの明鏡だけだったんですよね…さすがグルメの明鏡…

 

 

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『国語辞典を食べ歩く』

 

▼出版社
女子栄養大学出版部

 

▼書影画像元
版元ドットコム

 

 

※次回更新は2022年9月9日(金)の予定です

2022年8月19日(金)AM12:00|投稿者:KCLスタッフ

#kclスタッフおすすめ本 『にほんでいきる』

【 社会を考える 】

『にほんでいきる』
(毎日新聞取材班/編   明石書店 2020年刊)

 

「にほんでいきる」
この言葉にどんなことを思い浮かべますか?

 

本書は毎日新聞社による外国籍の子どもたちの就学に関する調査データや、行政機関などへの取材、子どもたちやその支援者へのインタビューなどをまとめたものです。
このキャンペーン報道を受けた文部科学省の調査から、「就学不明」の状態にある外国籍児童は全国で約2.2万人いることがわかりました。

 

冒頭で、桑名市に程近いまちで起きた事件が取り上げられています。
外国籍のため義務教育の対象でなかったため行政のモニタリングからはずれてしまい、虐待の末に6歳の女の子が命を落としました。
わたしも当時このニュースに接していたはずですが、それを社会問題として受け止める認識に欠けていたことを痛感しました。

 

通学したとしても日本語能力が不十分なことから、「発達障害」があるとされて特別支援学級に通う現状や、保護者の収入が不安定で子どもたち自身が働かなければならず、学びの場からドロップアウトして犯罪に巻き込まれるケースなどもあり、彼らが置かれた困難な状況が浮き彫りになっています。

 

桑名市には2021年時点で4,666人の外国の方が生活しています。
「『にほんでいきる』という言葉が、過酷さを物語るものではなく、すべての子どもたちが安心して学び、育っていけることを象徴する言葉になってほしい」
そう願うこの本を手がかりに、同じ「にほんでいきる」ひとりとして、一緒に社会について考えてみませんか。

 

 

【参考資料】
三重県ホームページ

「R3外国人住民数調査結果詳細」 (PDFファイルで開きます)

 

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『にほんでいきる』

 

▼出版社
明石書店

 

▼書影画像元
版元ドットコム

 

 

※次回更新は2022年8月26日(金)の予定です