「昭和」から「平成」、そして「令和」へ

2019年6月8日(土)|投稿者:kclスタッフ

こんにちは、志るべです。
みなさまいかがお過ごしでしょうか?
新元号「令和」がスタートしました。
平成への名残惜しさを感じつつも、新しい時代に対する期待が高まります。

 

今、桑名駅周辺も大きく変わろうとしています。
「桑名駅自由通路整備事業」の工事、真っただ中です。

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「サンファーレから見た桑名駅。塀の向こうで工事が行われています」

 

この通路が完成すると、踏切まで迂回せずに駅の東西を通行できるようになります。
(くわしくは、桑名市ホームページの桑名駅周辺地区整備構想桑名駅自由通路整備事業をご覧ください)
現在の桑名駅周辺の姿は、昭和44年の「桑名駅前市街地再開発事業」によって整備、開発されました。

 

建物が取り壊されてなくなってしまうと、「あれ?ここ何があったっけ?」と思うことがあります。
いつも見ている場所なのに・・・と記憶のあやふやさに驚きます。
桑名市立中央図書館では、「薄れ行く昭和の記憶の風化を防ぐ」ために資料を収集し、年に一度「昭和の記憶収集資料展」を開催していますが、新しい時代を迎え、昭和がまたひとつ遠くなりました。

 

昭和の初め、桑名駅からはどんな景色が見えたのでしょう?
昭和10年の桑名駅を詠んだ詩があります。

 

桑名の夜は暗かった
蛙がコロコロないてゐた
夜更け(よふけ)の駅には駅長が
綺麗な砂利を敷き詰めた
プラットホームに只(ただ)独り
ランプを持つて立つてゐた

桑名の夜は暗かつた
蛙がコロコロ泣いてゐた
焼蛤貝(やきはまぐり)の桑名とは
此処のことかと思つたから
駅長さんに訊(たず)ねたら

さうだと云つて笑つてた桑名の夜は暗かつた
蛙がコロコロ鳴いてゐた
大雨(おほあめ)の、霽(あが)つたばかりのその夜(よる)は
風もなければ暗かった

(一九三五・八・十二)

「此の夜、上京の途なりしが、京都大阪間の不通のため、臨時関西線を運転す」

(『中原中也詩集』 中原 中也/[著],大岡 昇平/編 岩波書店 1991 より)

 

これは、詩人中原中也(明治40年(1907)~昭和12年(1937))が詠んだ「桑名の駅」という詩です。
昭和10年(1935)8月、郷里の湯田(山口県)に帰省していた中也は妻とともに、前年に生まれた長男文也を連れて上京します。この上京時、関西地区の豪雨により東海道線が不通になるというアクシデントに見舞われます。そのため大阪から関西線を経由し名古屋へ向かうことになるのですが、途中、桑名で長時間の停車を余儀なくされました。
その際に生まれたのが上記の「桑名の駅」という詩です。
中也の没後、雑誌「文学界」(昭和12年12月追悼号)に遺稿として掲載されました。

 

中原中也といえば、帽子をかぶった、幼さの残る顔立ちの写真を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
「サーカス」という詩の、ブランコの揺れを表現した「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」という一節も印象的です。
「桑名の駅」が詠まれた翌年、長男文也は幼くして亡くなります。中也は文也の死をとても悲しみ、中也自身もその翌年、30歳という若さで亡くなりました。
中也が残した日記「文也の一生」には、昭和10年(1935)8月、上京の途中、桑名に停車したことが記されています。

 

関西水害にて大阪にて関西線を経由。桑名駅にて長時間停車。

(『汚れっちまった悲しみに―私の人生観』 中原 中也/著 吉田 凞生/編・解説 大和出版 1992 より)

 

この詩をぜひ桑名駅に残したいという方々の想いが形になり、桑名駅開業百周年に合わせて、平成6年(1994)7月5日、詩碑が建立されました。

 

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「関西線下り(四日市方面行き)ホームにあります」

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「詩が刻まれています」

今やプラットホームはコンクリートで固められ、中也の見た景色とは変わってしまいましたが、詩碑の足元には「綺麗な砂利が敷き詰め」られています。

 

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「関西線上り(名古屋方面行き)ホーム。ここに中也も降り立ったのでしょうか?」

今回、中原中也について書かれたものを読んでいて気づいたことがあります。
中也が亡くなった後、「中原中也賞」が設けられ、新進詩人の優れた創作詩篇に与えられているのですが、第一回(昭和14年)は立原道造、第ニ回(昭和16年)は杉山平一、高森文夫、そして第三回(昭和17年)は平岡潤に授与されました。(この賞は第三回で中止されており、現在の「中原中也賞」とは異なります)

 

「平岡潤」(明治39年(1906)~昭和50年(1975))といえば、桑名について調べる際、必ず目にする名前です。『桑名市史 本編』『桑名市史 補編』『桑名の伝説・昔話』を編纂された方です。
平岡氏が『茉莉花 詩集』(平岡 潤/著 平岡 潤 1942)を出されていることは知っていました。
けれど、あくまでも郷土史に造詣の深い方という印象で、詩集『茉莉花』で高い評価を受け、「中原中也賞」を受賞されたことは(図書館で働きながら恥ずかしいことですが)知りませんでした。
さらに平岡氏は、詩人であるだけでなく美術にも秀で、自由美術家協会賞(第一回)を受賞しています。画家を志されるほどでした。

 

仮定の話をすることは失礼かもしれませんが、もし戦争がなければどういう人生を送り、どういう作品を生み出されていたのだろうと思わざるを得ません。
復員後、郷里の桑名に戻ってからは郷土資料の収集、編集、文化財保護に尽力されました。中学校時代の恩師である近藤杢氏を手伝う形で「桑名市史」の編纂を始められます。
桑名市立図書館に勤務されていた時期もあり、私たちの大先輩でもあります。
戦後、荒廃していた秋山文庫(桑名藩儒であった、秋山白賁堂(はくひどう)、その長男寒緑(かんりょく)、次男罷斎(ひさい)の三人の蔵書)の救済に立ち上がり、伊勢湾台風の際には浸水した史料の修復に取り組まれました。
くっついた紙を1枚ずつ剃刀の刃で丹念にはぎとっていく・・・という気の遠くなるような作業をつづけられました。
桑名市立中央図書館の貴重なコレクションである秋山文庫を初めとする郷土資料は、平岡氏や先人の方々によって守られてきたものであり、それらの資料を私たちは託されているのだと思うと、身の引き締まる思いがします。

 

その後、昭和45年(1970)、桑名市立文化美術館(現在の桑名市博物館)が創設されると初代館長に就任されますが、残念ながら昭和50年(1975)、郷土史の講話のさなかに心筋梗塞の発作で倒れ、亡くなられました。

 

平岡氏にお会いすることはもうかないません。
けれど残された資料を守り伝えていくことで、その志を受け継いでいくことはできます。

 

「令和」もいつか歴史の中の一時代となる時がやってきます。
託された資料を守ると同時に、今を記録し伝えていくことも図書館の役割といえます。
改めて図書館の役割と責任を感じる機会となりました。

 

これから始まる、そしていつか歴史に刻まれる「令和」が明るい時代でありますように。

 

<参考・引用資料>
『中原中也詩集』 中原 中也/[著],大岡 昇平/編 岩波書店 1991 911.5ナ(書庫)
『新潮日本文学アルバム 30 中原中也』 新潮社 1985  910.2シ(一般)
『ふるさと文学館 第28巻 三重』 ぎょうせい 1995 L980フ(歴史の蔵)
『鉄道の文学紀行 茂吉の夜汽車、中也の停車場』 佐藤 喜一/著  中央公論新社 2006 910.2サ(一般)
『文學界 [1937]12月号』 文藝春秋社 1937.12 L915ブ(歴史の蔵)
『茉莉花 詩集』 平岡 潤/著 平岡 潤 1942 L915ヒ桑名作家(歴史の蔵)
『詩集「茉莉花」と平岡潤 戦争に埋もれた「四季」派詩人』 津坂 治男/著 1992 L904ツ(歴史の蔵)
『桑名の文化 平岡潤遺稿 1 平岡 潤/著 平岡潤遺塙刊行会 1977 L201ヒ通史(歴史の蔵)
『桑名の文化 平岡潤遺稿  2』平岡 潤/著 平岡潤遺稿刊行会 1977 L201ヒ通史(歴史の蔵)
『桑名市史 本編』 近藤 杢/編,平岡 潤/校補 桑名市教育委員会 1987 AL221ク(桑名三重)
『桑名市史 補編』 近藤 杢/編,平岡 潤/校補 桑名市教育委員会 1987 AL221ク(桑名三重)
『桑名の伝説・昔話』 近藤 杢/編,平岡 潤/編 桑名市教育委員会 1965 AL388ク(桑名三重)
『汚れっちまった悲しみに―私の人生観』 中原中也/著 吉田凞生/編・解説 大和出版 1992 (※ こちらの資料は当館に所蔵しておりません)

<志るべ>

 

第22回「図書館を使った調べる学習コンクール」の 受賞作品

2019年1月22日(火)|投稿者:kclスタッフ

第22回「図書館を使った調べる学習コンクール」(公益財団法人 図書館振興財団)の 受賞作品が決定いたしました!

応募作品総数は、107,707作品!

桑名市からは第14回「桑名市図書館を使った調べる学習コンクール」にて最優秀賞・優秀賞に輝いた6作品を出品し、以下の皆さんが各賞を受賞されました。

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調べる2018
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受賞されたみなさん、おめでとうございます。
「図書館を使った調べる学習コンクール」の作品は、近年全国的に応募数が増加し、内容のレベルもどんどん高くなっているようです。
どの作品も、みなさんが日常の中で興味・関心を持ったことを丁寧に、そして面白くまとめた作品となっています。

これからも、図書館はみなさんの調べる学習を応援・サポートいたしますので、ぜひ調べる学習コンクールの作品づくりに挑戦してみてください。

 

<かぶら>

特別整理期間に伴う休館と貸出期間延長のお知らせ

2019年1月18日(金)|投稿者:kclスタッフ

桑名市立中央図書館は、特別整理期間に伴い以下の期間休館いたします。

◎休館期間

2019年2月1日(金)~2月6日(水)

(ふるさと多度文学館、長島輪中図書館は休館日を除き、通常どおり開館しています)

※休館期間中の返却はくわなメディアライヴ1階の返却ポストをご利用ください。
ただし、CD、DVD、大型絵本・大型紙芝居、ゆめはま文庫、桑名市外から取り寄せた図書は破損のおそれがありますので、開館日にカウンターへお持ちください。

休館に伴い貸出期間の延長を行います。

◎貸出期間の延長

【図書・雑誌】 2018年1月18日(金)~1月31日(木)の貸出 ・・・ 3週間の貸出
【CD/DVD】 2018年1月25日(金)~1月31日(木)の貸出 ・・・ 2週間の貸出

※桑名市外から取り寄せた図書は、貸出期間が異なります。

通常よりも一週間長い貸出が可能です。
長編小説を通して読んでみたり、時間がなくて後回しにしていた本をじっくりと読まれてはいかがでしょうか。
話題の本を集めたベストセラーのコーナーや、各特集コーナーもぜひご利用ください。

◎期間中の講習室利用について
2階講習室は、特別整理期間中(2月1日~2月6日)はご利用いただけません。

休館に際し、皆さまには大変ご不便おかけしますが
ご理解とご協力をお願いいたします。

 

<平八郎>

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あけましておめでとうございます

2019年1月4日(金)|投稿者:kclスタッフ

新年あけましておめでとうございます。
本年も桑名市立中央図書館と「ブックとラック」をよろしくお願いします。
中央図書館は、本日1月4日より開館しています。

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さて、毎年恒例となりました干支飾りが、今年も図書館入口でみなさまをお待ちしています。

今年の干支は、「亥」

イノシシ

親子のイノシシがお出迎えいたします

花札の「萩に猪」をテーマに、今年もスタッフがマスキングテープで制作しました。
色鮮やかな萩の茂みにいる猪の姿を、細かなテープを重ねて描いています。
「猪突猛進」の言葉から少し荒々しいイメージのある猪ですが、この猪はどこかのん気で、くつろいでいるようにも見えます。

ところで、花札の札は、なぜ「猪」と「萩」なのかご存知ですか?
実はその答え、干支飾りと共に図書館入口に掲示しているコラムにあります。
ぜひ、コラムもあわせてご覧ください。

そして、こちらも毎年恒例となりました四字熟語。
今年掲げるのは、


四字熟語
 

 

「長目飛耳」(ちょうもくひじ)

「長目」は遠くのことまでよく見通せる目。
「飛耳」は遠くのことを聞きつける耳。
情報を豊富に収集し、世情に通じ、物事の観察・判断に優れていること。
また、見聞・知識を広める書物、という意味があります。

図書館は、資料を収集し、分類、保存を行い、
情報を求める人が、必要な情報を手に入れることができる場所です。

資料はただそこにあるのではなく、たくさんの情報を持って、それを求める人に出会う機会を待っています。
大切な1冊との出会いが訪れるよう、図書館スタッフ一同がお手伝いします。
ぜひ、見聞・知識を広めに図書館へお越しください。

<参考資料>

『四字熟語辞典』東郷 吉男/著 東京堂出版 2000
『四字熟語ときあかし辞典』円満字 二郎/著 研究社 2018
『赤木かん子の図書館員ハンドブック』赤木 かん子/著 埼玉福祉会 2011

<かぶら>

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年末年始の休館と貸出期間延長のお知らせ

2018年12月14日(金)|投稿者:kclスタッフ

「ブックとラック」をご覧のみなさま、こんにちは。平八郎です。
桑名市立中央図書館の年末年始休館と、貸出期間延長のご案内です。
中央図書館では以下の期間が休館となります。

【休館期間】
12月28日(金)~1月3日(木)

※休館期間中の返却はくわなメディアライヴ1階の返却ポストをご利用ください。
ただし、CD、DVD、大型絵本・大型紙芝居、ゆめはま文庫、桑名市外から取り寄せた図書は破損のおそれがありますので、開館日にカウンターへお持ちください。

また、休館に伴い貸出期間の延長を行います。

【図書・雑誌の貸出期間延長】
12月14日(金)~12月27日(木)の貸出……3週間の貸出

【CD・DVDの貸出期間延長】
12月21日(金)~12月27日(木)の貸出……2週間の貸出

※桑名市外から取り寄せた図書は、貸出期間が異なります。

通常よりも一週間長い貸出が可能です。
この機会に長編小説を通して読んでみたり、時間がなくて後回しにしていた本をじっくりと読まれてはいかがでしょうか。
どれを読もうか迷う……という時は、話題の本を集めたベストセラーのコーナーや、各特集コーナーをご覧ください。

今年も図書館をご利用いただき、ありがとうございました。
2019年も桑名市立中央図書館をご利用・ご活用いただきますようよろしくお願い申し上げます。
よいお年をお迎えください。

< 平八郎 >

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