三八市(さんぱちいち)はワンダーランド

2016年3月20日(日)|投稿者:kclスタッフ

~桑名は今も「十楽の津(じゅうらくのつ)」~

 

はじめまして、「志るべ」と申します。
「志るべ」と書いて、「しるべ」と読みます。
新しく、スタッフブログ「ブックとラック」の担当となりました。
よろしくお願いいたします。
名前の由来については、機会を改めてお話ししたいと思います。
今回は、三八市(さんぱちいち)の話におつき合いください。

 

少し前になりますが、寺町通りを通りかかったところ、
そのにぎわいにびっくり。
そうだ、三八市だ!
と、思わず入っていきそうになったのですが、 行き先を思い出し、
後ろ髪を引かれる思いで、 寺町通りを後にしました。

三八市の日にかかります。

三八市の日にかかります。

帰りに立ち寄ってみると、
社会科見学らしき小学生の一団も加わり、
にぎわいはさらにパワーアップ。
小さなお客さんたちは、目を輝かせながら、
限られた予算の中で、真剣に品さだめをしています。
桑名の方であれば、ご存じのとおり、
三八市は毎月、3と8のつく日に寺町通りに立つ市です。
魚に野菜、おもちにコロッケ、しぐれに黒棒(冬限定だそう)・・・
誘惑がいっぱいです。

ゆめはまちゃんのコーナーもあります。

ゆめはまちゃんのコーナーもあります。

そんな中に、桑名の名産品が並ぶ「くわな まちの駅」があります。
ゆめはまちゃんのグッズのとなりには、
なぜかバナナの袋入りが並んでいます。
この自由な品揃え、 これぞ桑名の魅力!

 

かつて戦国時代、
桑名は「十楽の津じゅうらくのつ)」といわれていました。
「十楽」とは仏教用語で、
極楽浄土で味わえる十種のよろこび、楽しみのことをいい、
「津」は、港を意味します。
「十楽の津」とは、自由な取引のできる港町というような意味でしょうか。

 

この時代には、「座」という制度(組合)があり、
座に縛られて、商売も制約を受けていました。
一方、桑名では自由な取引が行われていました。
桑名は、座のない自由都市として栄えていたのです。
信長の楽市楽座は有名ですが、町衆が力を持つ桑名では、
楽市楽座令が出る前から自由に商売が行われ、にぎわっていたのですね。

 

桑名が「十楽の津」と呼ばれていたことがわかる史料が、
近江(滋賀県)に残されています。
それは「今堀日吉神社文書(いまぼりひえじんじゃもんじょ)」1)
という、舌をかみそうな名前の文書です。
「今堀日吉神社文書」は、近江の日吉神社に伝わる文書で、
中世の商人の実態がわかる、貴重な文書がたくさん収められています。

 

この文書の中に、桑名で行われた紙や布の取引をめぐって、
近江の保内という村の商人と、枝村の商人が、
争いをしていたことが書かれています。
訴訟を記した文書です。
そこに、「・・・桑名ハ十楽津ニ候由・・・」と記されていることから、
桑名は「十楽の津」といわれていたと、考えられています。

 

また、桑名の町衆が力を持っていたことを示す、
エピソードも残されています。

 

安濃(今の津市)の豪族・長野氏が、桑名に攻めて来た時、
支配を嫌った桑名の町衆は、町から逃げ出してしまいます。
その結果、港はストップ。
取引はできないし、伊勢神宮への貢物も届きません。
困ったのは伊勢神宮です。
お願いだから、桑名から引き揚げてくれ
と、何度も長野氏に手紙を送っています。
この手紙が、「引付(ひきつけ)」2)という神宮の文書類に
収められています。

 

地方の豪族が、桑名に攻めて来ても、 桑名の町衆は、
それを上回る力を持っていたということですね。

 

残念ながら、地元桑名にはこういった史料は残されていません。
また、訴訟状である文書が、必ずしも客観的事実を示すとは限らない、
という見方もあります。3)

 

とはいえ、今も桑名人のパワーは健在です。
中世の「十楽の津」は、平成の「三八市」に引き継がれているようです。
これからも、
頑張れ、寺町通り商店街!!

寺町通り商店街の入口にかかってます。

寺町通り商店街の入口にかかっています。

引用・参考資料
1)『今堀日吉神社文書』 日吉文書刊行会 1975  L204イ中世
2)『三重県史 資料編中世1上』 三重県 1997  L201ミ
3)『中世末の桑名に関する一考察』 西羽 晃/著  L204ニ中世
増補 無縁・公界・楽』 網野 善彦/著 平凡社 1996  L204ア中世
日本の封建都市』 豊田 武/著 岩波書店 1966  291.0トH

 

三八市の話におつき合いいただき、ありがとうございました。
最後に、先輩ブロガー「ぐりこ」よりご報告があります。

 

< ぐりこ >からのお知らせ
新担当< 志るべ >の記事、いかがでしたか?
司書として長く郷土資料に携わってきた< 志るべ >の、 今後の投稿を
どうぞお楽しみに!

さて、私<ぐりこ>は2010年1月よりブログ担当を務めてまいりました。
ブログを通して出会えたみなさま、ここまでお読みいただき、
本当にありがとうございました!

この6年間、様々な内容の記事を書いてきましたが、
読者のみなさまからの反響が大きく、 特に印象に残っているのは、
本の修理について紹介した記事です。
こちらの記事からお読みいただけますので、よろしければご覧ください。

今後とも、スタッフブログ「ブックとラック」桑名市立中央図書館を、
どうぞよろしくお願いいたします。

< ぐりこ >

 

「ぐりこ」は、 人一倍、いえ人十倍、図書館に熱い想いと「志」を持っています。
「志るべ」の名前の中にも、「志」があります。
ぐりこの「志」は志るべの「志」として、受け継いでいきたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
<志るべ>

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