#kclスタッフおすすめ本 『まどのむこうのくだものなあに?』
2021年11月26日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 繰り返し読む本 】
『まどのむこうのくだものなあに?』
(荒井 真紀/さく 福音館書店 2020年刊)
この本との最初の出会いは、『こどものとも年中向き』2019年7月号でした。
表紙の赤いイチゴなどが印象的で、とっても美味しそう!
出てくる果物はとてもリアルで、手を伸ばせば食べられそうです。
それぞれ拡大されて全体と断面が描かれており、ページにあいた窓からのぞくといつもと違う印象になります。
よく食べる果物が、小さな窓を通しただけで違う表情を見せてくれるのが驚きでした。
その時は買わなかったのですが、ずっと心の隅に残っていました。後に、こどものとも絵本として出版されたのを知り、自分用に購入しました。
購入してからはすぐ取り出せるところに置いておき、自分一人でゆっくりと眺めたり、甥っ子が遊びに来たら読み聞かせとして何度も読んだりしています。
この絵本は表紙に「まどのむこうの くだもの なあに?」と書いてあるだけで、中には文字がありません。
文字の無い絵本なので、厳密にいうと繰り返し読む本とは言えないかもしれません。
でも、文字がないからこその楽しみがあります。
例えば、ページをめくる度に「まどのむこうの くだもの なあに?」と問いかけながら読むことがあれば、「これはなんの果物でしょうか?」とか、「赤くてツブツブのこれは何かな?」と毎回違う言葉で読んでいます。時には読まずに、ページを次々めくって遊ぶこともあります。
私が好きな本なので甥っ子によく見せていたら、遊びに来ると必ず置いてある場所から持ってきて「はいっ!」と渡してくれるようになりました。
最初の文字が言えないのか、“イチゴ”は「んご」、”ミカン“は「んかん」、”パイナップル”は「っぷる」となるのがかわいいです。
買ってすぐの時に本を食べられたこともありましたが、口をもぐもぐしながら見ている姿はかわいく、歯形が付いたページもいい思い出です。
なかなか会うことができませんが、会うたびにちょっとずつ言える言葉が増えていくので、甥っ子の成長を感じます。
いつまで一緒に本を読めるのかなと思いつつ、次に会える時にどんな成長を見せてくれるのか楽しみです。
▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『まどのむこうのくだものなあに?』
『こどものとも年中向き [2019]-7』(福音館書店 2019年刊)
▼出版社
福音館書店
※次回更新は2021年12月3日(金)の予定です
#kclスタッフおすすめ本 『十二単衣を着た悪魔』
2021年11月12日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 とにかく読んで欲しい本 】
『十二単衣を着た悪魔』
(内館 牧子/著 幻冬舎 2012年刊)
「おのれ光源氏!」
思い出したのは、そう叫んだ友人の顔でした。
「源氏物語」の授業が始まった頃、展開される恋愛模様への不満がとうとう爆発した時のことで、この一言を皮切りに周囲から次々と文句が飛び出ました。
「浮気性すぎるぞ光源氏」、「流されるな女性陣」、「もっと諫めろ天皇」…等々
そして、誰かが漏らした呟きが印象的でした。
「名作って言っても、もう現代人の感覚だと受け入れきれないんだよね。」
思い出したきっかけは、この小説、『十二単を着た悪魔』
この話は、唯一光源氏と敵対し続ける女性、弘徽殿の女御を中心に書かれた小説なのです。
主人公は、弟へのコンプレックスを持った現代に生きる普通の男性。ある時「源氏物語」世界に入り込み、弘徽殿の女御の元で陰陽師として生きることに。
そうして、物語では描かれなかった話の裏側を知っていくのです。
話は「源氏物語」に沿って進みますが、光源氏を陥れようとしては毎回失敗する弘徽殿の女御の心境は、まさに「おのれ光源氏!」
そんな彼女は、もともと生まれる時代を間違えたような現代的な感覚と気の強さの持ち主。
光源氏の行動を非難する時は笑ってしまうほど的確で、それでいて自分の計画が失敗したら烈火のごとく怒ってすぐ復活。
その前向きさは悪役と知りつつも思わず応援したくなるほどです。
主人公も次第にほだされて彼女のために動くようになり、光源氏を始め様々な登場人物と出会います。
そして彼らの起こす騒動に巻き込まれていくのです。
騒動の原因は基本彼らの身勝手な行動なのですが、読み進める中でそこに隠された葛藤が徐々に明らかになっていきます。
そして主人公はやがて光源氏とも深く関わっていき…
解釈は人それぞれ、本来の源氏物語のままでいいという方もいるでしょう。
それでもこの話を読み終わった時、千年超えるくらいじゃ変わらない、身勝手で必死な人間の姿がそこに浮かび上がってきます。
「おのれ光源氏!」
それが感想じゃ、「源氏物語」は勿体ない。
そう思わせてくれる作品です。ぜひ読んでみてください。
▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『十二単衣を着た悪魔』
▼出版社
幻冬舎
▼書影画像元
版元ドットコム
※次回更新は2021年11月26日(金)の予定です
kclビブリオバトル2021を開催しました!
2021年11月2日(火)|投稿者:kclスタッフ
2021年10月30日(土)、くわなメディアライヴ2階第1会議室にてkclビブリオバトル2021を開催いたしました。
今回、発表者として次の3名の方にご参加いただきました。
1.夜焚 さん
『としょかんライオン』
(ミシェル・ヌードセン/さく,ケビン・ホークス/え,福本 友美子/やく 岩崎書店 2007年刊)
▪最後ライオンがどうなるのかが気になり、読んでみたくなった。
▪図書館にぴったりの雰囲気の方で、ライオンに会ったらさぞびっくりされるんだろうなと思いました。
▪ルールを破ってでも何かを守ろうとしたライオンについて語っているところが、とてもジーンとしました。
2.ちくわ さん
『オニのサラリーマン しゅっちょうはつらいよ』
(富安 陽子/文,大島 妙子/絵 福音館書店 2017年刊)
▪絵が面白そうなので見てみたい。
▪大阪弁がすごくおもしろかったです。絵を見たくなりました。
▪発表がわかりやすくて、楽しい本だということがよくわかりました。
3.MuGicafe読書部部員 さん
『古代への情熱』
(シュリーマン/著,村田 数之亮/訳 岩波書店 1991年刊)
▪“わからなくっても読む”という言葉が、印象に残りました。
▪人生の夢や情熱がとてもよく伝わりました。
▪ロマンあふれる話だなぁと気になりました。
発表3作品の内、2冊が絵本という珍しいバトルとなった今回。
栄えあるチャンプ本に輝いたのは…
2番 ちくわさん発表の『オニのサラリーマン しゅっちょうはつらいよ』でした!
昨年に引き続いて、発表者としてご参加いただいたちくわさん。
『オニのサラリーマン』シリーズの面白さのひとつでもあるコテコテの関西弁を巧みに操り、絵本の魅力を笑いたっぷりに紹介されました。
観覧者とのディスカッションタイムでも、ちくわさんの受け答えが大変面白く、思わず笑ってしまう大変楽しいひと時となりました。
今年もkclビブリオバトルを無事開催することが出来ましたのも、ご関心を寄せていただきました皆さまのおかげです。
スタッフ一同心より御礼申し上げます。
中央図書館ではこれからも感染拡大防止対策を行った上で、イベントの開催情報・館内での特集コーナー設置など、様々な形での「人と本との出会いの場」を皆さまにお届けいたします。
それらの情報は館内掲示、当ホームページ、またはTwitterでも情報発信を行っております。
最後になりましたが、素敵な時間を作っていただいた発表者の皆さま、本当にありがとうございました!
これまでのビブリオバトルの様子はコチラ
歴代発表作品一覧はコチラ (PDFファイルで開きます)
桑名市立中央図書館 公式Twitter @KCL_lib
「歴史の蔵」へようこそ
2021年11月1日(月)|投稿者:kclスタッフ
こんにちは、「志るべ」です。
みなさまいかがお過ごしでしょうか。
秋も深まり、旅に出るのに絶好の季節となってまいりました。
けれど、まだまだ心配な新型コロナウイルス。
なかなか遠くに行けない今、地元桑名をみつめ直してみてはいかがでしょうか?
そんな時にご利用いただきたいのが当館4階の「歴史の蔵」です。
今回は「歴史の蔵」をご案内したいと思います。
3階から見上げると、あの桑名の連鶴(「桑名の千羽鶴」)が見えるのをご存じでしょうか?
連鶴の奥に見えるガラスの部屋が「歴史の蔵」です。
中央の階段を上がっていただくと、正面に見えます。
こちらが「歴史の蔵」の入口です。

入口はこちら。ガラスに囲まれています。
「歴史の蔵」には、桑名を中心に三重県に関する資料が収められています。
扉の隣に描かれている絵図は、江戸時代の桑名城下を描いた「文政年間桑名市街之図」(桑名市博物館蔵)
文政6年(1823)の移封(大名の配置替え)の時、桑名藩によって描かれた絵図で、御城とその周辺に住む藩士の家がわかる、いわば住宅地図のようなものです。
『徳川四天王の城-桑名城絵図展-』(桑名市博物館 2016.3 p54,解説p125)、『目でみる桑名の江戸時代』(桑名市立文化美術館/編集 桑名市教育委員会 1983.12 p12-13)に掲載されています。
桑名市立中央図書館では、同様の絵図「桑名藩城下図 文政8年(明治45年写)」(『桑名藩史料集成 付図』桑名市教育委員会 1990.10所収)をご覧いただくことができます。
「歴史の蔵」には数々の貴重な資料が収められています。そのため、入室には利用申込書の記入をお願いしています。
また手荷物はロッカーへお預けください(100円は後で戻ります)
室内に持ち込めるのは筆記用具(鉛筆)と貴重品のみとなります。
万一資料にペンが触れた場合、インクは消すことが難しいため、筆記具は鉛筆の使用をお願いしています。
それではいよいよ中に入りましょう。
室内は少し暗く、ひんやりと感じられます。
「図書館ツアー」の際には参加された方から、「なんだか空気が違う!」という声が聞かれました。
この部屋には、資料を守るためのさまざまな工夫がなされています。
温度を管理し、光による資料の劣化を防ぐため無紫外線褪色防止蛍光灯を使用し、照度も落としています。
また、万一火災が発生した場合、自動消火できる装置も備えています。
そのため外とは「空気が違う」と感じられるのでしょうか。
でもそれだけではないのかも・・・
何百年を経て今に伝わる文書が特別な空気を醸し出しているのかもしれませんね。
「歴史の蔵」の中はこんな配置になっています。

書架の側面に配置図が貼ってあります。
最初に三重県の資料が並んでいます。

三重県の資料がずらりと並んでいます。
次に桑名の資料がテーマごとに集められています。
テーマは次のとおりで、調べたいテーマで資料を探すことができます。
・通史、上代、中世、江戸、幕末維新、新選組、明治大正、昭和~
・桑名人物、松平定信、諸戸清六
・伊勢湾台風、戦災
・石取祭、伊勢大神楽、多度祭
・鋳物、千羽鶴
・桑名詩歌、桑名俳句、松尾芭蕉、桑名小説、桑名随筆、桑名作家、金雀枝
・桑名文化財、桑名埋蔵
・桑名PFI、桑名行政、桑名統計
図書だけでなく雑誌、紀要、新聞縮刷版(中日新聞の三重・北勢版)、地図、年鑑、行政・統計資料なども収められています。

書架の側面に案内が掲示されています。
奥に進むと「地域文庫」が並んでいます。
「地域文庫」とは、桑名にゆかりのある方から寄贈していただいた蔵書をまとめたもので、中には桑名市立中央図書館にしかない貴重な史料も含まれています。
桑名藩儒・秋山白賁堂親子の蔵書「秋山文庫」、桑名市の伊藤家に伝わる「伊藤文庫」、桑名市在住の民俗学者・堀田吉雄氏の蔵書「堀田文庫」、多度町在住の児童文学作家・北村けんじ氏の蔵書「北村文庫」、貝塚家(初代桑名市長貝塚栄之助氏の家系)の東洋学者・貝塚茂樹氏の蔵書「貝塚文庫」があります。

文庫紹介のパネルが立ててあります。

史料は「帙」で保護されています。
「秋山文庫」は、桑名藩(久松松平家)の史料を中心としています。天明期までの家臣の由緒を収録した『天明由緒 文政十丁亥』や久松松平家家中永代分限帳(家格、役割、扶持嵩などを記したもの)といえる『本の籬(もとのまがき)』などもあります。
これら貴重な史料は「帙(ちつ)」という中性紙でできた入れ物に納めて保管されています。
桑名市立中央図書館では、資料の状態を守りながら広くご利用いただくために地域資料のデジタル化を行い、ホームページで一部を公開しています。『天明由緒 文政十丁亥』、『本の籬(もとのまがき) 』も原本をホームページでご覧いただくことができます。活字で読みたいという方のためには『天明由緒 桑名藩士の来歴』(藤谷 彰/編集 桑名市教育委員会 2008.3)、『本の籬(もとのまがき)』(『桑名藩史料集成』 桑名市教育委員会 1990 所収)もあります。
最後に壁面をご案内します。
こちらには歴史の専門書が置かれています。

歴史の専門書が並んでいます。
日本史を研究する上での基礎史料(古典籍)の集成ともいえる『国史大系(全67冊)』(吉川弘文館 1998-2001)、寛政年間(1789-1801)に幕府が編集した大名や旗本の家譜集である『寛政重修諸家譜(全26冊)』(続群書類従完成会 1981)等々、歴史をじっくり調べる際の必需品(本)が並んでいます。
歴史の蔵についてご案内してまいりましたが、桑名や三重、そして歴史を調べる際の強い味方が「歴史の蔵」です。
歴史を学び、桑名を再発見する場として、ぜひ「歴史の蔵」をご利用ください。
<参考資料>
『桑名市立中央図書館 開館10周年記念 地域文庫コレクション』桑名市教育委員会事務局 生涯学習課 中央図書館 2015.3 AL/026/ク
『徳川四天王の城-桑名城絵図展-』桑名市博物館 2016.3 AL/221/ク
『目でみる桑名の江戸時代』 桑名市立文化美術館/編集 桑名市教育委員会 1983.12 AL/221/ク
『桑名藩史料集成 付図』桑名市教育委員会 1990.10 L/292/ク/地図
『天明由緒』 L/AKI/テ
『天明由緒 桑名藩士の来歴』 藤谷 彰/編集 桑名市教育委員会 2008.3 AL/221/テ
『本の籬(もとのまがき)』 L/AKI/モ
『本の籬(もとのまがき)』(『桑名藩史料集成』 桑名市教育委員会 1990 AL/221/ク 所収)
<志るべ>
#kclスタッフおすすめ本 『こちらあみ子』
2021年10月22日(金)|投稿者:kclスタッフ
【 衝撃を受けた本 】
『こちらあみ子』
(今村 夏子/著 筑摩書房 2011年刊)
この本を読み終わった後、何日かずっとモヤモヤした気持ちが残っていた。
登場人物達の声が、映像が、消えることなく胸を締めつけてくる作品だった。
あみ子の純粋な気持ちや言葉や行動は誰とも交わることがなく、時に無下にされ、その理由があみ子にはわからない。
あみ子と周囲とのズレが文章では淡々と描かれていき、その背面に潜む狂気が少しずつ、目立たぬように顔をのぞかせ、はっとさせられる。
誰しも自分の気づかぬ間に人を傷つけ、壊してしまう可能性がある。
無垢は時に凶器となり、常識は時に誰かの首を絞める。
相手を気遣う、敬う、思いやる─それが掛け違ってしまうと、こうも相手を打ちのめしてしまうのか。
救いようがなく、ただひたすらに苦しいのに、あみ子の言葉で紡ぎだされた日常は飄々としていて、ある意味すがすがしくも感じられる。
どんな形であれ、いつまでも心に残るということは名作なんだと思う。
読んだ人、一人一人にこの本の感想を聞いてみたい。
▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『こちらあみ子』
▼出版社
筑摩書房
▼書影画像元
版元ドットコム
※次回更新は2021年11月12日(金)の予定です