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#kclスタッフおすすめ本 『はじまりの日』

2022年3月18日(金)|投稿者:kclスタッフ

【 繰り返し読む本 】

『はじまりの日』
(ボブ・ディラン/作,ポール・ロジャース/絵,アーサー・ビナード/訳 岩崎書店 2010年刊)

 

“Forever Young”を日本語に訳するならば、何と訳しますか?
英語が苦手な私は「永遠に若く」と、ただ単語を直訳してしまうのですが、訳者のアーサー・ビナードはとても面白い訳をつけました。
それが、この絵本のタイトル『はじまりの日』です。

 

『はじまりの日』は、ミュージシャンのボブ・ディランが1974年に発表した楽曲「Forever Young」を基にしています。
「Forever Young」はディランが自身の息子に対して“自然に沸いた想い”を曲にしたものです。
ディランのファンであった私は、図書館で彼の名前が記されたこの本を見つけた時「『はじまりの日』なんて曲あったかなぁ」と不思議に思いながら本を開き、その訳の面白さに心を奪われました。

 

なぜ、「Forever Young」が「はじまりの日」と訳されたのか。
それは、ディランと同じく英語を母国語とし、日本の文化や言語に触れながら生活するビナード氏だからこそ生まれた訳だと思います。

 

『日本語ぽこりぽこり』
(アーサー・ビナード/著 小学館 2005年刊)

 

ビナード氏の著書『日本語ぽこりぽこり』では、ビナード氏自身が出会った“英語と日本語の差異”について記されています。
その一部を以下に抜粋します。

 

 

英語にはBless youという慣用句があって(God bless youの短縮形)、だれかがくしゃみをしたら、周りの人が必ずいってあげる言葉。
直訳すれば「神の加護があなたにありますように」になるが、(中略)身を守るために発したマジナイだ。

喫茶店で打ち合わせをしていて、相手の大くしゃみで話が途切れたとしても、英語ならこっちが反射的にBless youといえば、まるで何もなかったかのように、自然と話がつながって進んでいく。
しかし日本語では、そうすんなりとはいかない。(中略)やはりイマイチしっくりこない。

 

抜粋した箇所にある“God bless you”は、実は楽曲「Forever Young」にも登場します。
『はじまりの日』を読んだ後、ビナード氏に興味を持った私は『日本語ぽこりぽこり』で上記の箇所を見つけた際、「あの訳を思いついた時、しっくりきたんだろうなぁ」と思わず笑ってしまいました。

 

ビナード氏の訳に惚れ込んだ『はじまりの日』ではありますが、ポール・ロジャースの絵がまた曲の良さを引き立てています。
ディランの楽曲を愛する人であれば、「おや」と思う仕掛けがたくさん散りばめられた、とても素敵な絵です。
楽曲を聴けばこの絵本が読みたくなり、絵本を読めば楽曲が聴きたくなる。
何度も繰り返し触れてしまう、そんな魅力ある、大好きな作品です。

 

ちなみに、楽曲はこちらのアルバムに収録されています。
ぜひ、絵本と共に手に取ってみてください。

 

『ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ボブ・ディラン』

(ボブ・ディラン/演奏 Sony Music Labels 2016.12 「いつまでも若く」)

 

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『はじまりの日』
『日本語ぽこりぽこり』

 

▼出版社
岩崎書店
小学館

 

▼書影画像元
版元ドットコム (『日本語ぽこりぽこり』)

 

 

※次回更新は2022年4月1日(金)の予定です

#kclスタッフおすすめ本 『行った気になる世界遺産』

2022年3月4日(金)|投稿者:kclスタッフ

【 とにかく読んで欲しい本 】

『行った気になる世界遺産』
(鈴木 亮平/[著] ワニブックス 2020年刊)

 

本編冒頭にこんな言葉が書かれている。
「この旅行記は、フィクションです。」
著者は、世界遺産検定1級の持ち主でもある、俳優の鈴木亮平さん。
この『行った気になる世界遺産』は、鈴木亮平さんの“妄想”旅行記である。

 

この本では、30か所の世界遺産が紹介されている。遺跡の魅力はもちろん、その道中や現地の人とのふれあい、そしておいしそうなソウルフードの描写は、「本当に行っていないの?」と思うほどリアリティがあり、どんどん引き込まれる。
さらに、ダイナミックかつ繊細な遺跡の絵や挿絵も全て鈴木亮平さんが描かれたというから、驚きだ。
「フィクションだけど嘘はつきたくない」と徹底的に調べて書いたという、鈴木さんの誠実な人柄を感じる。

 

私が特に印象深かったのが、シリアの「パルミラ遺跡」だ。この遺跡は、シリアの内戦により、今は存在しない。
それでも鈴木さんは、現地の人の温かさ、遺跡の魅力をありありと描いている。
シリアの平穏が一日でも早く訪れることを私も願う。
何百年と残った遺跡も、いつ消滅してもおかしくないのだ。

 

首里城やノートルダム大聖堂の火災のニュースも大変ショックな出来事だった。
しかし、人々は歴史的な財産を復興させようと、奮起する。

 

その一つが、ポーランドの「ワルシャワ旧市街」である。
かつて「北のパリ」と呼ばれるほど美しかったその街は、ナチスドイツ軍の攻撃により瓦礫と化した。
復興はもはや不可能と言われたが、市民たちは残されたスケッチをもとに、破壊される前と寸分違わぬ街を見事に復元したのである。

 

世界遺産の歴史的背景やストーリーを知ることで、より一層遺跡の魅力を感じることができることを、この本が教えてくれた。

 

最後に、この旅行記が刊行されたのが、2020年の9月。
コロナ禍により、海外はもとより国内ですら、自由に行くことができなくなってしまい、その状況は今でも続いている。
こんな今だからこそ、ぜひこの“妄想”旅行記を読んでほしい。想像すれば、どこへでも、いつでも行けるのだ。

 

そしていつの日か、かけがえのない世界遺産を自分の目で見ることが私の夢である。

 

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『行った気になる世界遺産』

 

▼出版社
ワニブックス

 

▼書影画像元
版元ドットコム

 

※次回更新は2022年3月18日(金)の予定です

#kclスタッフおすすめ本 『くつしたどろぼう』

2022年2月18日(金)|投稿者:kclスタッフ

【 とにかく読んで欲しい本 】

『くつしたどろぼう』
(ゆうき/ぶん,もりの みさこ/え マイルスタッフ 2020年刊)

 

皆さんのお家では、お子さんのくつしたが、いつの間にか片方なくなってしまうことってありませんか?
どこを探しても見つからない。たしかにくつしたが両方あったはずなのに?いつなくったのだろうか・・・

 

本の表紙に描かれているのは、くつしたから覗くかわいらしい目ととんがった真っ赤なお鼻?
なんだろうと思い、本を手に取るとタイトルに「くつしたどろぼう」とある。
興味を惹かれ本をひらいてみると、今まで不思議に思っていたある謎の答えがそこには広がっていました。

 

この本に登場する“かれら”は家のすみにすんでいます。
人間にバレないよう、こっそり片方のくつしたを盗んでいきます。
本には今まで盗んだ片方のくつしたがたくさん描かれている場面があり、色とりどりでとても鮮やかです。

 

私は今も片方だけくつしたがないときがあります。
私の場合はただ単に失くしただけですが、子どもの時はもしかしたら、かれらに盗まれていたのかもしれません。

 

はたして“かれら”は片方のくつしただけ盗んでどうするのでしょう?ぜひ読んで確かめてください。

 

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『くつしたどろぼう』

 

▼出版社
マイルスタッフ

 

※次回更新は2022年3月4日(金)の予定です

#kclスタッフおすすめ本 『春にして君を離れ』

2022年2月4日(金)|投稿者:kclスタッフ

【 繰り返し読む本 】

『春にして君を離れ』
(アガサ・クリスティー/著,中村 妙子/訳 早川書房 1981年刊)

 

「ミステリーの女王」として有名なアガサ・クリスティー。
小説を読んだことが無い人でも名前や映画やドラマなどで知っている方も多いと思いますが、今回紹介させていただくこの小説は、ミステリーではなく、殺人も犯人も探偵も登場しません。

 

イギリスの中流階級の家庭の主婦、主人公のジョーンが結婚してバグダッドに暮らす末娘の急病のため、娘のもとへ向かい、鉄道や自動車でロンドンまで戻る途中に悪天候で足止めにあう。
持ってきた本も読みつくし、手紙を書こうにも便せんもなく、少し前に異国の鉄道宿泊所でばったり会って、短く言葉を交わした学生時代の友人の言葉から、ずんずん色々な出来事を振り返り、考えもしなかった事実が浮かび上がって来るという物語で、心理描写が読むものを惹きつける小説です。

 

また、時代背景は戦前で主にイギリスが舞台なのですが、働きすぎによるストレスや、支配する母親と娘の関係、転職して農場を経営したかった夫と妻の関係や不倫、使い込みの公金横領など、現代社会にも起きている出来事が登場します。

 

主人公のジョーンの心の中がほとんどの小説ですが、エピローグは夫の心の中が書かれており、ある意味、推理物の謎ときの答えになっており、怖い結末になっています。

 

1890年生まれのアガサ・クリスティーの小説を、児童文学も多数翻訳されている1923年生まれの中村妙子さんが訳されているので、時代が出ている日本語の文章ですが(例えば職業婦人という言葉など)そういった事を含めて時代を感じていただけたらと思います。

 

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『春にして君を離れ』

 

▼出版社
早川書房

 

※次回更新は2022年2月18日(金)の予定です

#kclスタッフおすすめ本 『無口になったアン夫人』

2022年1月21日(金)|投稿者:kclスタッフ

【 装丁が好きな本 】

『無口になったアン夫人』
(サキ/[著],中西 秀男/訳 国書刊行会 1988年刊)

 

書庫から出してもらい、はじめて手に取ったとき、異様な装丁に心を奪われました。

 

この本は、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの編纂した世界幻想文学全集「バベルの図書館」の30巻のうちの一冊です。収録されているのはメルヴィルやポー、カフカといった近代の著名な作家から、『聊斎志異』の蒲松齢、さらには千夜一夜物語まで、まさに世界文学の名にふさわしいシリーズとなっています。
各巻にはボルヘスによる序文が付されており、作家と作品の寸評が書かれています。

 

さて、本書の著者は短編の名手といわれるサキです。
あらゆるアンソロジーにその作品が収録されており、どこかで読んだことのある話もあるかもしれません。
ブラックユーモアに満ち、退廃的でゴシックな雰囲気のある、しかし軽快な13の掌編がこれでもかと続きます。

 

装丁は縦長の見慣れない判型に、暗い青色を基調にしたカバー。
表紙のタイトルや著者名は英語、シリーズ名はイタリア語で、出版社名は「Kokusho Kankokai editore」と書かれています。
原書はイタリアのフランコ・マリーア・リッチ社(Franco Maria Ricci)から出版され、日本版はその装丁を踏襲したもの。
うつくしい装丁とともにサキの描き出す世界観に浸ることができ、あらためて読書とは文字を読むだけでは成立しないのだと気づかされました。

 

「バベルの図書館」シリーズはいずれもうつくしく、また作品によって少しずつ趣が異なります。
残念ながら当館にはこのうち6冊しかありませんが、ぜひ実際に手に取っていただいてそれぞれの風合いをお楽しみください。

 

参考資料:『ボルヘスの世界』(渋沢 竜彦/ほか著 国書刊行会 2000年刊)

 

▼本の貸出状況は、こちらから確認いただけます
『無口になったアン夫人』(バベルの図書館 2)
『人面の大岩』
(バベルの図書館 3)
『盗まれた手紙』
(バベルの図書館 11)
『悪魔の恋』
(バベルの図書館 19)
『輝く金字塔』
(バベルの図書館 21)
『パラケルススの薔薇』
(バベルの図書館 22)

 

▼出版社
国書刊行会

 

 

※次回更新は2022年02月04日(金)の予定です

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